石井紘基の調べたものが日本の出発点になる

紀藤 それからもう一つは、憲法的にいうと、憲法は62条でこの国政調査権を規定していますが、その規定は、「両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」となっています。この「両議院」は、議員個人ではなく、院制の「議院」です。憲法上、「衆参両議院が国政調査をする権限を持っている」という立てつけになっている。

だから、個々の国会議員が調べられるものがどんどん減っているんです。わかりやすく言うと、最近の国会議員は、調べようにも、官僚が通り一遍のものしか持ってこないんですよね。

そういう経緯のなかで2002年に石井紘基さんが殺害されたのは、非常に大きな意味を持ちます。なぜかというと、石井さんはそれまで国政調査権を使って、いわば議員特権を使っていろんな記録を調べていったわけです。その先例になるはずだったものが、殺害されたことによって、その後に引き継がれなかった。つまり、石井さんと同じようなことをやっている国会議員が、弟子として次に育ってないのです。

泉さんもその次の郵政選挙で落選されるので、結局、石井さんの仕事は引き継がれていない。法律化されていない。「議員が立法するにあたって、どういうことが調べられるのか」ということが整理された、特別法がないのです。

だから結局、今は制限ばかりになっていて、個々の議員の力がどんどん弱まっている。それは安冨先生が言われるように、官僚権限が逆にどんどん強まっていることも意味するのです。官僚の活動について、議員が調べられないわけですから。

石井さんは戦ったと思うんですね、もし議員特権が制限されるのであれば。国政調査権の発露としての議員特権を守るための新しい立法が出来た可能性もあるのです。そういうものが全部失われたという意味では、石井紘基さんの死はあまりにも、その後の日本において大きな損失だったのではないかと思います。

安冨 私も同じように思います。個人情報保護法とか特定秘密保護法とかの、本当の目的はそこにあったと思いますね。つまり、システムにとって都合の悪い記録を調べられないようにする、誰からも見られないようにする。その目的でつくったのだろうなと私は考えていました。

 私も市長を12年やっていて、市長という立場にいると、黒塗りの資料しか上がって来ないんです。情報開示があっても、現場が全部消してしまう。見せないわけ。市長の私が「黒塗りせんでいいから」と言っていたぐらいで、そこは地方公務員も中央省庁の官僚も同じです。

役人には「悪意がなくてもオープンにしたくない」という習性がありますから、そこは市長としても悩ましい問題でした。誰かのプライバシーを侵害するんだったら黒塗りしたらいいけど、そうじゃなかったら、行政がやったことは胸を張ってやればいいんだから、オープンにしたらいい。

私はそう思っていたんですけど、実際はなかなかそうでもなかった。それがまして中央省庁になってくると、もっと秘密主義になってしまっているとは感じますね。

泉房穂氏
泉房穂氏
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安冨 石井紘基が調べたものが、出発点になると思うんです。「そこから日本はどういうふうに変わってきたのか」ということを考えると、今の日本の像が描きやすくなると思っています。

「関所システム」のモデルとなった、「満洲国」という「国」を私は研究したんですけど、資料が戦争中で少なかったとはいえ、戦後、「国」が崩壊しているので、全ての資料がオープンになったわけです。世界的に、散らばっている資料をいろんな人が集めて、研究を進めていくことができたのですが、そうやって見えるレベルというのは、やっぱり明快なんですよね。すごくいろいろなことが、よくわかるのです。

リアルタイムで動いている日本のことになると、そういうレベルでは見られないんですよね。でも、20年前のことであれば、今はだいぶ安全になっていますので、石井紘基が残したり、考えたことを出発点にすると、現在の日本を理解する上で役に立つのではないかと思うのです。

それは、先ほどターニャさんもおっしゃっていましたけれども、与党にとっても非常に役に立ったはずなんです。なぜなら、与党、自民党の政治家も全員だまされているわけですから。「隠されていることを明らかにする」ということが、政治を行なう上での基本的なインフラになるのではないかと私は思っています。(つづく) 

*統一教会(世界基督教統一神霊協会)は、現在は、世界平和統一家庭連合と名前を変えています。新聞などは「旧統一教会」と表記しますが、本稿では歴史を尊重して、統一教会(Unification Church) と呼ぶことにします。

構成/高山リョウ 写真提供/石井ターニャ 撮影/内藤サトル(泉氏)、楠聖子(安冨氏)

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