犯罪集団の暴走族が「唯一の居場所」

彼の幼少期はどんな風だったのか、親に対して、友達、犯罪についてどう感じていたのかが知りたくて、インタビューすべてを読み返した。

ワタルは4人兄弟の末っ子だった。お兄ちゃんたちは逮捕されることはなかったがヤンチャな感じ。男の兄弟たちに揉まれて育った。

ワタルは体操やサッカーを習う元気な子どもだったが、小学6年生くらいから斜視を理由にいじめの対象にされた。これまで一緒だった友達からいじめを受け、自分の居場所が見つからなくなったと話す。

次に見つけた居場所は非行友達だった。万引き、バイクの無免許運転……、次々と犯罪行為を覚えていった。小学生限定の不良LINEグループがあったという。これにはとても時代を感じた。

(写真はイメージ)
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中学になると、これまでの非行行為は「お金のため」に形を変えていく。盗んだブランドものを転売し、恐喝でお金を稼ぐ。行為はエスカレートしていった。ワタルは家出をくり返し、このときは親との関係性も悪く、親に怒られ殴られることもあったようだ。

そして中学3年生のときには、窃盗と集団道路交通法違反で逮捕されてしまう。家庭裁判所の審判の結果、ワタルは赤城少年院 (群馬県前橋市)に収容されることになった。

赤城少年院は第1種に分類され、ここは中学生を収容することができる。義務教育と同じ授業が受けられるということだ。中学生のワタルはここで半年間を過ごすことになった。

しかし、両親は家裁のこの審判の結果に納得できないと、高等裁判所に不服を申し立てる「抗告」をし、見事認められ、ワタルは実質2ヵ月で少年院から社会に戻れることになった。

抗告とは、裁判の結果に対して不服を申し立てる簡易な上訴手続きで、法律が特に定めている場合に限り申し立てることができる。「司法統計年報」を見ると、令和4 (2022)年中の抗告事件は、受理の総数358件。そのうち、既済 (結論が出たもの)332件、未済 (年末までに結論が出ず、翌年に繰り越したもの)26 件とある。

統計上はここまでしかなく、既済332件の内訳は公表されていないが、親しい家裁調査官、法務教官、保護観察官に聞いたところ、抗告が認められることは一様に「ごくわずか」「めったにない」という反応だった。

少年事件は家庭裁判所の審判で、抗告は高等裁判所の裁判官が判断をくだす。これにより審判の判断基準だけでなく、さまざまな視点で判断されることになる。私自身、多くの少年と出会っているが、抗告が認められたケースは初めて聞いた。ワタルはそのごく稀なケースだったということだ。

文/中村すえこ
写真/AC写真、shutterstock

帰る家がない 少年院の少年たち
中村すえこ
帰る家がない 少年院の少年たち
2024年8月8日発売
1,650円(税込)
220ページ
ISBN: 978-4-86581-433-0

幼少期から親に虐待されて家出、食うために窃盗や強盗をした少年。友達の身代わりに詐欺の受け子をして抜けられなくなった少年。それぞれの犯罪の裏には、まだ自立できない年齢なのに、頼れる大人も安らぎもないという家庭や社会の問題がある。
また、少年院を出ても昔の仲間が足を引っ張る。追い詰められた結果、闇バイトの実行犯として懲役刑を受けた18歳の「特定少年」は「捕まってホッとしている」と言った。頼れる人のいない少年が生きていくには多くの困難がある。自身も少年院経験者の著者は、彼らが犯罪へと踏み込んでいくのは少年だけの問題ではなく、社会、すなわち大人の問題でもあると語る。人は人とつながることで生きていける。支えがあれば、人は変われる!

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