ヒントは、投開票日の前の決選投票のシミュレーションに隠されていた

「決選投票の結果を聞いて一瞬耳を疑った。間違った内容が読み上げられたのかと思った」

大手マスコミ政治部で石破氏を担当した番記者の1人は、新総裁誕生の瞬間をそう振り返った。

1回目の投票では高市氏が党員票で1位となり、国会議員票との合計では石破氏の154票を大きく引き離す181票を得て決選投票に進出。

もともと石破陣営は党員票で他候補を圧倒し、決選で投票先を迷っている議員の浮動票を引き寄せる戦略を描いており、高市氏に党員票でも敗れたのは大誤算だった。

それだけに、石破氏が逆転勝利を果たしたことには関係者の中でも驚きが広がった。

9月19日の秋葉原、番記者のあいだでも「石破さんは厳しいだろう」といわれていた 撮影/村上庄吾
9月19日の秋葉原、番記者のあいだでも「石破さんは厳しいだろう」といわれていた 撮影/村上庄吾
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「正直、1回目の投票で高市氏が1位となった時点で、もう決選投票も高市氏が制すると思っていた。まさか石破氏が逆転するとは思わなかった」(石破番記者)

そもそも、なぜ高市氏が1回目の投票でここまで強さを発揮することが出来たのか。
永田町関係者は語る。

「マスメディアによる序盤の世論調査では高市氏の支持率が3位となっているものが多く、小泉進次郎氏や石破氏に食い込むのに苦戦を強いられていたが、中盤から小泉氏が『解雇規制の見直し』などで反発をうけて失速。

後半戦は高市氏が2位に上がっていったが、最後に党員票で1位となったのは、安全保障に関する事案が立て続けに起きた影響もあるだろう」

中国広東省深圳では9月18日、日本人学校に通う10歳の日本人男児が中国人男性に刃物で刺され、死亡する事件が発生。

また、23日にはロシア軍機が日本の領空を3回にわたって侵犯する事案が起き、25日には中国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を太平洋に向けて発射した。

日本の安全保障への国民の不安が高まる中、自民党の中でもタカ派と言われる高市氏への期待感が党員の中で強まったと見られる。

また、議員票を巡っては、キングメーカーの1人である麻生太郎副総裁が、高市氏が決戦に残るよう働きかけ、1回目から高市氏に入れた麻生派議員が多数出た。

政敵である菅義偉前首相の息がかかった小泉氏も石破氏も応援できないため、これまで支援してきた河野太郎氏を切ってでも高市氏を押し上げる戦略に舵を切り、1位通過を後押しした。

決選投票で敗れた高市氏(共同通信社)
決選投票で敗れた高市氏(共同通信社)

このように、党員票でも議員票でも奮闘した高市氏だが、決戦では石破氏に総裁の座を許してしまった。この逆転劇はなぜ起きたのか。

そのヒントは、投開票日の前に永田町で出回った、とある決選投票のシミュレーションに隠されていた。