【どこにでもいる平凡なOLの物語】

――話がやや前後しますが、まずは青木さんの代表作の『これは経費で落ちません!』(以下、『経費』)シリーズについてうかがいます。本作はどのような経緯で生まれたのでしょうか。

オレンジ文庫の創刊時に主人公の年齢が高めでもよいと言われたので、これまでは書けなかった会社員の話にしようと決めました。小説なので変わった職業の方がよいだろうと、入浴剤の開発室を舞台にした『風呂ソムリエ 天天コーポレーション入浴剤開発室』を書いたけど、職業が変わり種すぎたし、自分としてもあまり手応えを感じない。

『これは経費で落ちません!』などデビュー20周年・青木祐子の仕事歴_2
理想のお風呂を作りたい、風呂をめぐるOLストーリー

そこでようやく、本当に書きたいのはどこにでもいる平凡なOLの話だと気づいて、同じ会社の経理部に勤務する森若沙名子を主人公にした『これは経費で落ちません!』を執筆しました。

――経理というモチーフに着眼された理由を教えてください。

事務職であればどの職種でもよかったのですが、最初に勤めた会社にとても仕事のできる綺麗な経理のお姉さんがいて、彼女からヒントを得て森若さんというキャラクターが生まれました。当初は事務の女の子の日常を中心にした物語として展開するつもりでしたが、1巻の発売後に「もっと経費をめぐる謎が出てくるのかと思った」という感想を読んで、そのアイディアは面白いなと思って、ストーリーにミステリーの要素を取り入れました。

――リアリティのあるお仕事描写や人間模様が共感をよんでいますが、作品にはご自身の経験が投影されているのでしょうか。

そこは投影していますね。森若さんのキャラクター造形以外でも、皆で一冊の書籍を共有する時には貼り付ける付箋の色を個人別に決めておくというエピソードや、仕事中にコーヒーだけを買いに行くのは駄目だけど用事にあわせてならよいというルールなど、細かいところに自分の経験が反映されています。