一方で否定的な元部員と現役教員
こうした意見とは反対に朝練は不要と唱えるのが、中学3年間、野球部に所属していた30代男性のBさん。当時は好んで部活に励んでいたBさんだが、今では「朝練はいらなかった」と振り返る。
「朝練がいらない理由は山ほどあります。まず、成長期の睡眠は体を作るうえでとても重要ですから、運動のメリットよりも睡眠不足によるデメリットのほうが大きい。習慣づくりといったって、どうせ大学生や社会人になれば、夜ふかしが身についてリセットされちゃいますよ。
一番の弊害は、朝練で疲れてその後の授業に身が入らなかったことですね。自分は自転車で長距離通学もしていたので、授業中の空腹や眠気はしょっちゅうでした。それでも要領がよかったので進学できましたが、朝練のせいで授業に集中できず、成績が落ちて進学に影響した部員を見ていると、悔やんでも悔やみきれないだろうなと思います」(Bさん)
AさんとBさんのように、同じ時代に運動部を経験した人でも、朝練に対する思いは分かれるようだ。一方、指導する立場としては、部活の朝練についてどのように感じているのだろうか。現在、神奈川県の高校で教員を務め、多くの部活顧問を歴任してきた50代男性のCさんに話を聞いた。
「私個人としては、朝練はなくてもいいと思いますね。早起きして体を動かすのは健康的ですが、あまり激しいと悪影響が上回ると思います。実際、授業中にウトウトしたり集中していないように見える生徒は、朝練後の子に多い印象です」(Cさん)
Cさんが朝練に否定的なのは、生徒の健康面や本業である学業への影響を考えてのことだけでなく、監督する教員側の事情も関係している。実は、教員の間では、朝練はおろか部活の顧問そのものが「やりたくない業務」になっているというのだ。
「自治体によって多少異なるとはいえ、部活の指導をしても手当は時給換算で最低時給以下しか出ません。それなのに怪我や熱中症が起きれば監督責任を問われますし、負担ばかりで割に合わないのが実情です。私も若い頃は柔道部の顧問を務めましたが、これは若さゆえの体力、気力、情熱と、私自身が学生時代に柔道をやっていたという趣味的なモチベーションが強いですね。年老いてからは茶道部や手芸部など、顧問への負担が少ない部活ばかり選んでいます」(Cさん)