被害者や被害者遺族は不在だった
人員の不足もあり、同じ無期懲役囚が高齢の囚人の世話をするシーンもカメラは記録していた。病に冒され、医療刑務所に移送された高齢の囚人がその数日後に死亡したという事実も含まれていた。
すでに被害者遺族が亡くなったケースも多く、加害者も記憶がだんだんと薄れ、あるいはアルツハイマー病と診断され、自分の罪名すらわからない受刑者もいる。死刑を紙一重で逃れた彼らの「末路」の断面を垣間見ることができた。
介護施設状態になるのを避けるために、仮釈放数を増やすべきなのではないかというメッセージが番組には込められていたように思ったが、最新の「犯罪白書」によると無期懲役囚の「仮釈放」については大きな上下はなく、微増の傾向にある。
一方で、全体では2005年(平成17年)から6年連続で低下していたが、2011年(平成23年)に上昇に転じ、2022年(令和4年)には62.1%になっている。
受刑者の多くは運動の時間、体力づくりに余念がない。いつか社会に戻れることは死刑囚以外にはかすかな「生きる希望」であり、それで生きつないでいるのだという受刑者の言葉には、なるほどそういうものだろうとの印象を受けた。
しかし、水原の指摘通り、そこに被害者や被害者遺族は不在だった。
長い時間の中で、被害者や遺族、加害者は歳をとり、亡くなっていく。そうでなくとも、もともと交流がなかった両者には年を追うごとに「距離」ができ、加害者のほうは記憶も薄れていく。身内もなく、手紙などの交流もない受刑者が多い。
更生保護施設の長は「一生かけて償いをしなければいけない」というふうに曖昧なことを言っていたが、具体的な「償い」については言及していなかった。
あるいは、更生保護施設の役割は、元受刑者が「娑婆(しゃば)」の居住地や仕事を見つけるまでの橋渡し役であり、被害者サイドとの交渉をするという役割はないので、被害者や被害者遺族の事件後の「時間」をイメージできないのかもしれない。