残された2つの選択肢

現状のグリーンテックは、ほとんどの地域のほとんどの人々にとって、目立った変化をもたらすほど実用的ではないし、安価でもない。

利用できるのは、資本が豊富な先進国で、さらに偶然にも大規模な人口密集地が日当たりのいい場所や風の強い場所に近い場合に限られる。アメリカの南西部の4分の1は条件がよく、大平原地帯、さらにオーストラリア、北海沿岸部も同様だ。

その他のほぼすべての地域は、エネルギー需要の大部分を従来的な燃料に頼り続けるだろう。温室効果ガス排出の観点では、これは実際とてもまずいことだ。なぜなら、そうした地域の大半は、石油と天然ガスもグローバル市場から手に入れられなくなるのだから。

石油も天然ガスも調達できず、地理的に太陽光発電も風力発電も十分に利用できないとなれば、単純な決断を迫られる。

温室効果ガス排出のイメージ。写真/Shutterstock
温室効果ガス排出のイメージ。写真/Shutterstock
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選択肢Aは、過去2世紀にわたって人類を進歩させてきたあらゆる製品を手放し、食料生産の壊滅的な減少に苦しみ、生活水準と人口を大幅に低下させること。電気なしの道を行くのだ。脱工業化。脱文明化である。

あるいは……選択肢Bは、ほぼすべての国の土地に埋蔵されている燃料、つまり石炭を使うことだ。多くのとりわけ運の悪い国々は、褐炭と呼ばれる、燃料としてかろうじて使える程度の石炭を使わざるをえなくなる。

通常、褐炭は重量の5分の1が水分で、現在使用されている燃料のうち飛び抜けて効率が悪く、かつ汚染の影響が最も大きい。ドイツは、現在すでに褐炭を主な発電燃料として使っている。グリーンテックはドイツの地理的条件に合わず、使いづらいからだ。それなのに、環境保護という名目で、他の燃料を用いる発電所をほとんど閉鎖してしまった。

この惑星では、大規模な経済崩壊に見舞われると同時に、二酸化炭素排出量が大幅に増加する、そんなことが十分にありえるのだ。


文/ピーター・ゼイハン

「世界の終わり」の地政学
野蛮化する経済の悲劇を読む 下
ピーター・ゼイハン
「世界の終わり」の地政学野蛮化する経済の悲劇を読む 下
2024年7月26日発売
2,200円(税込)
四六判/352ページ
ISBN: 978-4-08-737005-8

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【下巻・目次】
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第5部 工業用原材料
第6部 製造業
第7部 農業

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