異常すぎる近年の気候変動に、それでも「グリーンテック」がまだ有効でない“3つのワケ” 「削減できる二酸化炭素の量より排出する量のほうが多くなってしまう」
近年、地球を襲う気候変動。二酸化炭素排出をおさえるために注目されているのが、グリーンテックだ。グリーンテックとは、再生可能エネルギーなど持続可能な社会を実現するための資源や環境に配慮したテクノロジー、またはサービスを指す。しかし実際にはさまざまな理由から難しいのではないかと述べるのが、地政学ストラテジストのピーター・ゼイハン氏だ。はたして、その真意とは?
『「世界の終わり」の地政学 野蛮化する経済の悲劇を読む 下』より一部抜粋、再構成してお届けする。
「世界の終わり」の地政学 #2
残された2つの選択肢
現状のグリーンテックは、ほとんどの地域のほとんどの人々にとって、目立った変化をもたらすほど実用的ではないし、安価でもない。
利用できるのは、資本が豊富な先進国で、さらに偶然にも大規模な人口密集地が日当たりのいい場所や風の強い場所に近い場合に限られる。アメリカの南西部の4分の1は条件がよく、大平原地帯、さらにオーストラリア、北海沿岸部も同様だ。
その他のほぼすべての地域は、エネルギー需要の大部分を従来的な燃料に頼り続けるだろう。温室効果ガス排出の観点では、これは実際とてもまずいことだ。なぜなら、そうした地域の大半は、石油と天然ガスもグローバル市場から手に入れられなくなるのだから。
石油も天然ガスも調達できず、地理的に太陽光発電も風力発電も十分に利用できないとなれば、単純な決断を迫られる。
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選択肢Aは、過去2世紀にわたって人類を進歩させてきたあらゆる製品を手放し、食料生産の壊滅的な減少に苦しみ、生活水準と人口を大幅に低下させること。電気なしの道を行くのだ。脱工業化。脱文明化である。
あるいは……選択肢Bは、ほぼすべての国の土地に埋蔵されている燃料、つまり石炭を使うことだ。多くのとりわけ運の悪い国々は、褐炭と呼ばれる、燃料としてかろうじて使える程度の石炭を使わざるをえなくなる。
通常、褐炭は重量の5分の1が水分で、現在使用されている燃料のうち飛び抜けて効率が悪く、かつ汚染の影響が最も大きい。ドイツは、現在すでに褐炭を主な発電燃料として使っている。グリーンテックはドイツの地理的条件に合わず、使いづらいからだ。それなのに、環境保護という名目で、他の燃料を用いる発電所をほとんど閉鎖してしまった。
この惑星では、大規模な経済崩壊に見舞われると同時に、二酸化炭素排出量が大幅に増加する、そんなことが十分にありえるのだ。
文/ピーター・ゼイハン
「世界の終わり」の地政学
野蛮化する経済の悲劇を読む 下
ピーター・ゼイハン
2024年7月26日発売
2,200円(税込)
四六判/352ページ
ISBN: 978-4-08-737005-8
日本人はまだ知らない。脱グローバル経済がもたらす衝撃。
エネルギー、資源、食糧。無慈悲な未来を日本はどう生きるのか。
★40万部突破の全米ベストセラー!
☆フィナンシャル・タイムズ紙「最優秀図書賞」(読者選出)受賞!
★世界中が刮目!
イアン・ブレマー氏(『Gゼロ後の世界』)、絶賛!
「経済地理学・人口学・歴史学を総合した、常識を破る、鋭い地政学理論」
白井聡氏(『武器としての資本論』)、感嘆!
「米国が脱グローバル化に舵を切る。驚きの未来像がここにある!」
☆概要
すでに不穏な兆しが漂うグローバル経済。それは一時の変調なのか。いや、そうではない。米国が主導してきた「秩序」、すなわちグローバル化した「世界の終わり」なのだ。無秩序の時代には、経済も政治も、文明そのものも野蛮化していく。しかも世界中で人口が減少し、高齢化していくなかで軌道修正も困難だ。そのなかで生き残っていく国々とは?
地政学ストラテジストが無慈悲な未来を豊富なデータともに仔細に描き、全米を激しく揺さぶった超話題作!
★おもな内容
・いよいよアメリカが「世界の警察」の役割を捨て、西半球にひきこもる。
・脱グローバル化で、世界経済に何が起きるのか。
・今後、大きなリスクにさらされる海運。製造業がこうむるダメージとは?
・過去七〇年の成長を支えてきた、豊かな資本。それが、世界的に枯渇してしまう理由。
・世界的な人口減少。日本人が見落としていた壁とは?
・世界のモデル国・日本を、他国が見習うことができないのはなぜ?
・エネルギーや資源の調達は、今後も可能なのか?
・グリーン・テクノロジーでは未来を支えられない、その理由。
・日本が食糧危機から逃れるために、すべきこと。
・「アメリカの世紀」のあと、覇権を握る国はどこなのか。
【下巻・目次】
第4部 エネルギー
第5部 工業用原材料
第6部 製造業
第7部 農業