3月25日のヒヤリングはあったのか?知事に問うと…

状況が変わったのは、牛タン倶楽部の一員である原田剛治産業労働部長が企業からコーヒーメーカーを受け取った収賄罪の可能性もある不正が発覚し、丸尾牧県議がゲリラ的に行なった県職員へのアンケートで斎藤知事のパワハラを含む告発文書に沿った証言が続々と寄せられた後のことだ。

「県議会でも不信が広がり、調査特別委員会(百条委員会)が設置されるまでになりましたが、この過程で片山副知事は『自分が辞職するから百条委だけはつくらないでくれ』と自民党県議団に泣きついていました。

それでも百条委の設置が決まると、牛タン倶楽部の他のメンバーはAさんのパソコンに入っていたプライベートな内容を含むデータをプリントアウトし、持ち歩いて県議らに見せ、3年前の知事選で斎藤氏を推した維新の岸口実県議や増山誠県議はこのパソコン情報を百条委で全部公開すべきだと主張したりもしました。その先に、Aさんは自死を選択したのです」(Aさんの友人の県関係者)

片山副知事は号泣して辞職を表明したが…(写真/共同通信社)
片山副知事は号泣して辞職を表明したが…(写真/共同通信社)

徹底したAさんつぶしの先頭に立った片山元副知事は3月27日、Aさんに西播磨県民局長の職を解くとの辞令を手渡している。その際にAさんは「証拠に基づいてきちんと判断してくださいよ」と伝えている。

「実はAさんも片山副知事も人事課長経験者で、二人とも公益通報制度に熟知している。Aさんは、自分の内部告発を通報制度に基づいて調べれば態度を改めるべきは知事とその周辺であることがはっきりする、という決然とした意志を伝えていました」(Aさんの知人)

そのAさんの要求も公益通報制度の趣旨も無視した懲戒処分を出した県人事当局。その頂点にいた片山氏は辞任すると言い始め、7月12日に開いた会見では「なんで知事を支えられなかったのかと、悔しいて、しょうがないです」とむせび泣くようなしぐさをしてみせた。

その際片山氏はAさんに3月25日にヒヤリングをした、と述べた。しかし既述の通り、Aさんは3月末までに事情聴取を受けなかったと言い残している。

はたして片山元副知事が言う3月25日のヒヤリングはあったのか。

会見で斎藤知事にたずねると「人事当局の方に聞いていただければ思います」と返って来た。そこで県人事課に聞くと「人事管理に関する事項は答えられない」という。片山副知事に事情を聴こうと携帯電話を鳴らしたが取ろうとせず、メッセージで質問を送ったが返事はなかった。

亡くなったAさんは、斎藤知事に「公務員失格」とまで言われ尊厳を傷つけられた直後の4月初旬、これに反論する書簡をまとめている。その末尾に、傍らにあった書籍からこぼれ出た栞に書かれていたとして、アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの言葉を記し、「後輩職員達への最後のエールとして」と結んでいた。

神よ、
変えてはならないものを受け入れる冷静さを、
変えるべきものは変える勇気を、そして
変えてはならないものと変えるべきものとを
見分ける知恵を我に与えたまえ。

Aさんが願った方向へ、兵庫県は向かい始めているのだろうか。

7月19日の兵庫県議会百条委でAさんに黙祷を捧げる県議ら(撮影/集英社オンライン)
7月19日の兵庫県議会百条委でAさんに黙祷を捧げる県議ら(撮影/集英社オンライン)
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班