1500万枚以上の売り上げ、イギリス史上11番目のベストセラー
「ドライブに行こうよ」と、ブランソンは港の近くに駐車してある自分の古いベントレーのところに歩き出した。オールドフィールドがこの車を気に入っていることは知っていた。それにたくさんのオーディエンスが向かう会場の前を爽快に走れば、彼の気分も変わるかもしれない。
「運転してみるかい?」
「……ああ、オッケー」
オールドフィールドが運転するベントレーは会場を離れて、かつてブランソンが「スチューデント」を編集していた教会のそばを走り抜けていた。
「マイク、この車欲しくない? プレゼントするよ」
「えっ!?」
「僕はここで降りて歩いて帰るよ。運転していいからさ。もう君のものだし」
「冗談よしてくれよ。この車は君の結婚プレゼントだろ?」
「いいんだよ。君はこれに乗ってクイーン・エリザベス・ホールの周りを巡って、今晩ステージに上がってくれよ」
二人の間に沈黙が流れた。
数時間後。オールドフィールドは歓声と拍手喝采を浴びながら、深くお辞儀をしていた。『チューブラー・ベルズ』は翌月チャートの23位になり、8月には遂にトップに立った。
このアルバムは最終的には1500万枚以上を売り上げて、イギリス史上11番目のベストセラーになった。ブランソンは当時を振り返ってこう言った。
「ベントレーを犠牲にしたのにはそれなりの価値があったが、私はもう一台、ベントレーを買う気にはならなかった」
文・構成/TAP the POP 画像/左:2009年発売『Tubular Bells : Original Album 2009 Remaster』(Mercury UK) 右:Shutterstock
●引用・参考文献『ヴァージン―僕は世界を変えていく』(リチャード・ブランソン著/植山秀一郎訳)