世界選手権制覇で見つけた、勝つための“極意”

さらに大きな転機となったのが、末武氏の紹介で約1年間、直接キム・チョンテコーチの指導を受けたことだ。
「全部変えてくださいと頼み、弓の持ち方や矢のつがえ方など、基本から徹底的に指導してもらいました。10年の癖を直すのは大変だったけど、指導を全部受け入れました」

虚心坦懐、一から覚え直す覚悟で上山はキムコーチの教えを実践することに集中した。そして2023年の世界選手権でついに初優勝を果たす。

この経験から上山は、アーチェリーの極意に気づいた。
「勝ちたい気持ちを消すのが大事」
アーチェリーは繊細なスポーツで、精神の安定が求められる。勝ちたいと思うと、どうしても体に力が入り、外れやすくなるという。

「欲をなくす。僕は欲望の塊だから難しいけど、試合に臨むときはあえて『この試合どうでもいい』と自分に言い聞かせています」

アーチェリーは真のバリアフリー

アーチェリーは、車いすでオリンピックに出場もでき、健常者と同じ土俵で競えるスポーツだ。「点数的にはほぼ変わらないので、同じ条件で戦えるのが面白い」
バリアフリーとは、障害のある人が社会に参加する上でバリアをなくす意味で使われるが、アーチェリーには最初からバリアがない。

「だから車いすだから負けたという言い訳は通用しません。これが本当の意味でのバリアフリーだと思います」と強調する。

「アーチェリー競技は真のバリアフリー。車いすだから負けたという言い訳は通用しません」世界No1を目指す上山友裕_3
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国内では、パラの大会が少ないため、一般の全日本大会にも出場する。「パラの試合では負けられないプレッシャーがあるけれど、一般の大会では挑戦者の立場で臨めます。これが、ゲームの上級モードみたいな感じで面白いです」

目標にしているのは、オリンピック選手に勝つことだという。「たとえば古川(高晴)選手は、オリンピック6大会連続出場の、めっちゃすごい選手ですけど、ぼく過去1回だけ2ポイント取ったことことがあるんです。70m先の的まで矢が届けば、勝つ可能性はゼロではないのがアーチェリー。また挑戦したいと思います」

世界のトップ選手に挑戦できるという開かれた競技性が、アーチェリーの最大の魅力なのだろう。

「勝ちたいと思わない」極意でパリで目指すもの

「世界選手権とアジアパラ競技大会のメダルは持っています。残っているのはパラリンピックだけ」

自宅の1階には、リオと東京の公式ユニフォームや表彰状、トーチを飾っている。
「あとパラリンピックの金メダルを置けば“上山博物館”完成、コンプリートです!」と笑う。

「勝ちたいと思わないようにしている」と前置きしつつも、この思いがパリのモチベーションになっている。
アーチェリーの心技を身につけた上山は、未来に広がる無限の可能性へ向かって矢を放つ。

取材・撮影/越智貴雄[カンパラプレス]

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