さくらももこの天才的な構成力

最後は『ちびまる子ちゃん』の作者・さくらももこのエッセイ集『もものかんづめ』(集英社)に収録された「メルヘン翁」から。

さくらももこの祖父が死去し、そのことを姉に伝えたときの文章です。

感情が溢れた文章には狂気が宿る…星野源が闘病で、さくらももこが祖父の死に面して綴った文章に映る「書くしかない」想いの強烈な魅力とは_3
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「ジィさんが死んだよ」と私が言ったとたん、姉はバッタのように飛び起きた。「うそっ」と言いつつ、その目は期待と興奮で光り輝いていた。私は姉の期待をますます高める効果を狙い、「いい? ジィさんの死に顔は、それはそれは面白いよ。口をパカッと開けちゃってさ、ムンクの叫びだよあれは。でもね、決して笑っちゃダメだよ、なんつったって死んだんだからね、どんなに可笑しくても笑っちゃダメ」としつこく忠告した。

姉は恐る恐る祖父の部屋のドアを開け、祖父の顔をチラリと見るなり転がるようにして台所の隅でうずくまり、コオロギのように笑い始めた。

私は、「あ、お姉ちゃんダメだって言ったでしょ、いくら面白くてもさァ」とますます追い討ちをかけてやったので、姉はとうとうひっくり返って笑い出した。

死に損ないのゴキブリのような姉を台所に残し、私は祖父の部屋へ観察に行った。誰も泣いている人はいない。ここまで惜しまれずに死ねるというのも、なかなかどうしてできない事である。

さくらももこ『もものかんづめ』(集英社)より

祖父が家族からどれだけ嫌われていたのかが、短い文章でここまで鮮明に伝わる凄まじいまでの描写力。「バッタ」「コオロギ」「死に損ないのゴキブリ」と姉を昆虫の三段活用でたとえている天才的な構成力。さすがとしか言いようがありません。さくらももこの面白さが存分に詰まった素晴らしい文章です。

こんな最高の文章だけを一生読んでいたい。そのために文字単価0・1円、1000文字100円のダイソーライターをこの世から一匹残らず駆逐したい。文章界のエレン・イェーガーに私はなりたい。

書こうと思って書いているのではなく、「書かなくてはいけない」「書くしかない」という強い想いが乗った文章にこそ、私は魅力を感じるのです。

文/かんそう  写真/shutterstock

書けないんじゃない、考えてないだけ。
かんそう
書けないんじゃない、考えてないだけ。
2024/5/22
1,650円(税込)
352ページ
ISBN: 978-4763141378

「面白かった」「やばい」しか出てこない人でも、
書きたいことがとめどなく溢れてくる!!

★文章で大切なのは、テクニックよりも
「書く前にどれだけ考えるか」「どうやって考えるか」

「せっかく感動したのにうまく言葉にできない」
「SNSやブログで読まれる文章を書きたい」
「自分の商品や作品の魅力をちゃんと伝えたい」

「書けない」悩みには、共通する原因があります。
それは、文章テクニックの上手い・下手ではありません。
「書く前の考え方」を知らないことです。

本書では、「文章力」を
「文章について本気出して考えた時間の量」と定義しています。

書く前に、どうやって考えるか。
書く前に、どれだけ考えられるか。
考えたあとに、読まれる文章をどうやって書くか。

考える→書く
これさえできれば、あなたの想いや感動を
何千字でも何万字でも書けるようになるのです。

★エンタメ系トップブロガーが文章にまつわる「全て」を書き下ろし!
本書は、「書くこと1本」で月間240万PV達成、冠ラジオ番組まで辿り着いたブロガー「かんそう」初の著書。
常軌を逸した表現力で読者の人気を集め続ける著者が、
培ってきた文章にまつわる「考え方」「書き方」を
余すことなく伝授します。

★アナウンサー宇内梨沙さん大絶賛!
「小学生の頃、書き方を教えてもらったわけでもないのに、
夏休みになると読書感想文が宿題になり、苦しんでいた日のことを思い出しました。
この本を読んで
『型にはまるな、自由に書け』と背中を押されたかった。」

【目次より】
■第1章 「文章力」の正体
・文章力=文章について本気出して考えた時間の量
・「文章力」は文章を書かない人間が作り上げた幻想
・文章とは書く前から書いている   など

■第2章 「言語化」気持ちや感動を言葉にする
・自分の中に「イマジナリー秋元康」を飼え
・「自分の感情の海」に深く潜る
・「一」を徹底的に愛する   など

■第3章 「感情」を制するものは文章を制する
・感情が溢れた文章には狂気が宿る
・テクニックを凌駕する圧倒的なパワー「怒」
・尊いを越える究極の表現「恐怖」   など

■第4章 「刺す文章」を書く
・刺す文章は「広いあるある」と「狭い固有名詞」
・文章にこだわりを持つ 文章速度/視線誘導
・句読点、改行は添えるだけ   など

■第5章 「構成」で読者の目を集める
・タイトルに命を懸ける
・摑みは読者の息の根を止めるつもりで
・「起承転結」の「承転」はシカトして「起結」と親友になる   など

■『書けないんじゃない、考えてないだけ。』を読んで、考えてから書いてもらった。

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