約30年間、一人で旅館を切り盛り

設備は冷暖房やドライヤー、シャンプー等揃っているため、このような山の中の小さな旅館であることを考えれば申し分ない。そしてこの旅館に泊まる醍醐味はなんといっても、目の前いっぱいに広がる圧倒的な自然の景観だ。

山西旅館の窓から見た景色
山西旅館の窓から見た景色

「もし宿泊されるのなら、“二階の手前側の部屋”で予約をされることをおすすめします。奥のお部屋は改装されておりきれいですが、窓からの景色を楽しめるのは手前側の部屋の特権だと思います。今回の宿泊では、小さな集落ですが商店跡や古い民家などが多く見られ、田舎に帰ってきた感じが味わえました。すぐ近くに水田があったので、夜はカエルの鳴き声で賑わい、星空もきれいに見えてよかったです。本当に落ち着く宿でした。

山西旅館の口コミが一件しかないのが不思議なくらいですが、一方でこの雰囲気を保っていたほうがいいかなとも思い、女将さんに『SNSで紹介していいですか?』と聞いてみたら、『じゃんじゃん宣伝していいよ!』と言われたので宣伝します。いい宿です」

この魅力あふれる旅館について、当サイトからも電話で取材を試みると、ひさこさんが優しい口調で、照れながらも質問に答えてくれた。

「あんまりたくさん人が来てくれても対応ができないのだけども、うれしいことですね。わたしも年を取ってしまったので十分なことをできないので、値段は安くしているんです。20歳で嫁に来てからずっとここで働いています。主人は病気で早くに亡くなって、それが私が49歳くらいのときだったかな。それからもう30年くらい一人で切り盛りしています。

忙しいときはパートさんも雇っていましたが、最近は自分も年を取って手足も痛いし、常連さんがちょっと飲みにくるくらいですね。そんな中でもたまに、ネットで見たという方が泊まりに来てくれたりしますね。予約は電話口だけで対応をしているのですが、私も洗濯物したり買い物したりと常に電話を取れるわけではないので、十分に出ることができないのは申し訳ないです。家族的な雰囲気で、静かな場所で安く泊まっていただけるようにしております」(ひさこさん)

山西旅館の館内
山西旅館の館内

鳴門の渦潮や阿波踊りなどと並んで、豊かな自然を誇ることで有名な徳島県。しかし、2019年に株式会社大和ネクスト銀行が20歳~69歳の男女1000名を対象に「国内旅行」に関するアンケートを取ったところ、「旅行したことがない都道府県」ランキングで、1位の佐賀県(80.4%)、2位の高知県(79.4%)、に続き、3位が徳島県(78.8%)となってしまっていた。

今年もゴールデンウィークが終わり、初夏まで連休のない日が続く。五月病に悩むくらいなら、都会の喧騒から離れて静かな里山を旅行するのもいいかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部  写真提供/べーたさん/@onecuprain