長年のリスナーが報われる? 最新作『100万ドルの五稜星』のアレンジ
ざっくりわけると、第11作まではロックやポップス好きに受けがよさそうな直線的なアレンジが多く、第12作からはクラシックやプログレ好きの耳を楽しませてくれる傾向が強いと思う。そして、第22作でイントロの定型を打ち破る方向に進み始めるのだ。
人気作曲家の菅野祐悟氏が音楽を担当するようになったのは、まさにこのタイミングだった。東京音楽大学でクラシック音楽を専門的に学んだ菅野氏がバトンを受けるのに、アレンジの自由度が拡大していったこのタイミングは理想的だったと思う。音による描写力、叙述力を十全に発揮してくれるだろうと期待が高まる。
極言すれば、今やいじりすぎてはいけないのは1コーラス目だけになっている。ここは「俺は高校生探偵、工藤新一」から始まるナレーションのための指定席なので、おそらく今後も大きく崩れることはないだろう。
はたして、菅野体制になって第1弾、通算第25作『ハロウィンの花嫁』のメインテーマは、これまで培われてきたプレ・イントロ、イントロのパターンをきれいさっぱり捨てて、ハープでメルヘン風味のスモークを焚いたあとに、管楽器の合奏が仮装パレードを先導して踏み出してゆくかのような、まったく新しいイントロになった。間奏からの展開も、かつての「入れ子式」最盛期に迫る物語性を帯び、実にいい。
続く第26作『漆黒の魚影(サブマリン)』は、潜水艦の潜航から浮上をイメージさせる中間部の展開と音作りがカッコいい。
ところで、いろいろ語ってきた私だが、白状すると劇場版『コナン』を一作品としてちゃんと視聴したことはなかった。サブスクで何本か観かけたことはあるが、メインテーマが終わると、つい満足してしまうのだ。
メインテーマを語る分にはそれでもいいと思っていたが、この原稿を書いているうちに『コナン』愛が昂まり、いてもたってもいられなくなって、最新作『100万ドルの五稜星(みちしるべ)』を封切り当日の午前中に鑑賞してきた。祝、初コナンである。
映画館の音響で初めて聴いた最新アレンジは、すごかった!
今回、和楽器が来るだろうと予想はしていたし、イントロで琴を使うのは想定内だったが、Aメロ後半からの三味線の入りには、完全に魂を持っていかれた。その後の笛とのかけ合いもアツい(ネタバレはしないが、劇中での使い方も実にいい)。ここまで来たら、私の長年の夢である「フラメンコギターを大々的に使ったメインテーマ」までもう一歩だ。
そして、忘れちゃいけないもうふたつの新機軸! 前作で胎動を始めていたパーカッションメインの間奏が今回、太鼓を起用した堂々たる響きで実現したのだ。あと、いささかマニアックな話だが、菅野体制初となる下降パターン(ド・シ♭・ラ♭・ソ)が聴けるなど、長年のリスナーはきっと報われた感じがしたことだろう。
唯一の難点は、短すぎること。もう50秒は尺をとってほしかった。というわけで、次回作のメインテーマ・アレンジも楽しみにしております。映画自体もとてもおもしろかった。
取材・文/前川仁之