イントロの〝聖域〟が解放された第22作『ゼロの執行人』

それから先の作品も個性的なアレンジが続く。ポイントをひろっておこう。

実在のサッカー選手とコラボした第16作『11人目のストライカー』では、定番の下降パターンのイントロを4小節目だけ「ファ・ソ・ラ♭・ド」と等分の音価(音の長さ)に変えてスタジアムのチャント感を作っている。スケール(音階)を多用した間奏もグッド。

第17作『絶海の探偵(プライベート・アイ)』では、アウトロに行くと見せかけてフェイントが入るのがおもしろい。ちなみに、このアレンジから登場するサイレンのような不安をあおる音使いには、映画『地獄の黙示録』(ワーグナー作曲『ワルキューレの騎行』)という大いなる先達がいる。イージス艦が登場する本作はミリタリー色強めなので、寄せてきたか。

キリがなくなるのでここまで触れないようにしてきたが、『コナン』メインテーマのメロディーは、アレンジや奏者によって節まわしが微妙に違っていることも少なくない。それが顕著なのが第18作『異次元の狙撃手』だ。ほかの作品と聴き比べ、自分なりの節まわしを追求してみよう。

次の第19作『業火の向日葵』では、久々のラテン風パーカッションが聴きどころだ。

第20作『純黒の悪夢(ナイトメア)』では、主題歌で何度も参加していたB’Zの松本孝弘氏が存在感抜群のギターを聴かせてくれる。

 

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百人一首が小道具となる第21作『から紅の恋歌(ラブレター)』では、間奏部に4・7抜き短音階のフィルインからのバイオリンソロで「和」テイストを強め、雰囲気満点。さらに本作では、前半4小節と後半4小節で異なるパターンを合わせた、2段構えのイントロが試みられている。

そして、続く第22作『ゼロの執行人』では、イントロに決定的な変化が生じる。演奏難易度が高い鋭利な感じのプレ・イントロから、いつもの下降パターンのイントロにつなぐ……と思いきや、このイントロ、4小節目でふたつのコード(借用和音)に基づくパッセージに切り替わり、身をひるがえすようにして切り上げてしまうのだ(Dセブンス→Gセブンス→いつものC)。

これほどまでにイントロのコード進行を崩したのは初めて。新たにイントロパターンを作っても〝調性感〟に関しては墨守されてきたが、ついにその〝聖域〟が解放されたのだ!

第23作『紺青の拳(フィスト)』では、また二段構えのイントロとなり、これはその次の第24作『緋色の弾丸』にも引き継がれている。Aメロ後半からBメロにわたって、流れるような楽器のリレーが美しくておすすめだ。物語のキーパーソン、赤井秀一とその一家のさまざまなキャラクターを表現していると思われる。

ここまでの流れを見る限り、さすがに20作の大台を超えると、イントロにも大いに手を入れる自由と必要が生じてきたと考えられないだろうか。そして――。