儲かるのは、悪者と弁護士だけ

〈【もしも、あなたが検察官だとしたら/評者註】捜査の初期段階であなたは会社を訪ね、詐欺の疑いがある理由を説明する。すると担当者は、会社は協力し、正しいことを行いたいと考えており、そのために元連邦検察官で、現在は著名な法律事務所のパートナーである弁護士を雇い、内部調査を行わせると回答する。会社の顧問弁護士は、会社自身の内部調査の結果をあなたと共有することを条件に、内部調査が終わるまで、あなたの捜査を延期するよう要請する。時間と資源を節約するため、あなたは同意する。

世界の刑務所人口の25パーセントを収監――200万人以上もの人間を塀の中に押し込める、アメリカの司法制度が抱える闇とは【〈ノンフィクション新刊〉よろず帳】_4

半年後、会社の顧問弁護士が、会社は過ちを犯したが、現在それを是正する意向であることを示す詳細な報告書を持って、戻って来る。そしてあなたと会社は、会社が、経費のかかる内部的な予防措置の強制と、即時の制裁金の支払いと結びついた訴追延期合意を結ぶことで合意する。現実的に、この事件はこれで終結する。あなたは将来の犯罪防止に役立ったと思うのでハッピーだし、会社は壊滅的な起訴を免れたのでハッピーだ。そしておそらく最もハッピーなのは、実際に発端となる不正行為を働いたにもかかわらず、無傷のままに置かれた重役や元重役たちであろう〉【9】 

レイコフは、このような手法を〈ハッピー〉とは考えない。本書では他にも、目撃証言やDNA鑑定を代表とする科学捜査に潜む矛盾や問題点、テロとの戦いがもたらした法解釈の歪みなど、さまざまな角度からアメリカの法制度や運用、解釈の異常性を訴えている。