「あの席にはいろんな仕掛けがあるの。」
――笑点ではおなじみの“木久蔵ラーメンはまずい”というイジリも、師匠発信だったと本で知りました。
チラシもポスターもないんで、この商品をメジャーにするにはどうしたらいいかっていう。普通、大手だったら「まずいラーメン」って言わないでしょ。でも、笑点に出ていて落語家だからっていうんで、おもしろがってくれると思ったんですよね。
仲間にも「まずいって言ってよ」ってお願いして。人には判官贔屓っていうのがありましてね。「まずい」「まずい」って言っていたけど、本当はそうじゃないんじゃないのかって思って買ってくれる人はすごく多かった。
――斬新すぎますよね。
ちょっと、逆をね。
――やっぱり、これから日曜のあの時間に木久扇師匠が見れないって、現実味が湧かないんですよね。あの国民的人気番組の、ほぼすべてを知っている方ってもう師匠しかいらっしゃらないじゃないですか。
やっぱり難しかったんですけどね。司会者変わる度に性格違うから。しかも強烈な方ばっかりだからね。最初からもう談志さんでしょ。それに合わせてね、自分を出してくっていうのが結構難しい。
――笑点で特に印象に残ってるシーンはなんでしょうか。
初めてのサンフランシスコでの海外ロケですね。桜祭り収録に行ったんですよ。アメリカはジャズの国だから、好きでよく口笛で吹いていた「セントルイス・ブルース」で何かできないかなって思って。それで「いやん、ばか~ん」って替え歌にして出したんですよ。そうしたら、向こうのお客さんが足踏み鳴らして口笛「ピー」って大ウケ。「いやん、ばか~ん、そこはお耳なの、うふん」って、あの歌はそのアメリカ収録の時に誕生したんです。ウケたから日本で収録したら10万枚になったんですよ(笑)。
――常にアイディアを生み出し番組を盛り上げてこられた54年。4月から笑点のあの席に座る方はすごいプレッシャーなのではないでしょうか……。
大変だと思う。ただおもしろいことを言えばいいのかと思ってやると、僕がやった仕掛けがいっぱいあるからね(笑)。4月からは突然そういうのがなくなっちゃうわけで。ある程度時間はかかると思いますね。そう、あの席にはいろんな仕掛けがあるの。何十年と積み上げられた仕掛けがね。
取材・文/西澤千央 撮影/野﨑慧嗣