駆け出しの頃は失敗だらけ?

――度胸と機転ですよね。

でも、やっぱり事故になることもありましてね。(桂)三木助師匠がお亡くなりになってから(林家)正蔵師匠のとこに入門して、そこで芝居噺っていうのを初めて知ったの。夏に怪談噺をやるんですよ。

師匠が怪談噺をやる間、弟子は釣り竿に細い針金くっつけて、綿に焼酎染みさせて火をつけて火の玉にして、それを師匠の後ろから出す。師匠が「そなたは豊志賀、迷うたな」って言ったら、スッと火の玉を出して。

でも奥行が狭いんですよ、末広亭って。芝居小屋じゃないから。だから、横に振らなくちゃいけない。でも、慣れてきて片手でそれをやるようになって。しかも他の噺家と喋りながらやるようになったら、あるとき師匠の髪に火の玉くっついちゃって。「アチ~!」って言って、大変でした(笑)。

駆け出しの頃を回想する木久扇師匠
駆け出しの頃を回想する木久扇師匠

――え!?

舞台袖で「談志さん、暑い晩だから、はねたらビールかなんかお願いしますよ」「おめぇしょうがねえな、そんなこと言っちゃあ」とか話してたら……「ジュッ」って。師匠髪にポマード塗っているから、ボッと。

――怒られました……?

弟子たちは「師匠が怒るぞー」つって。案の定師匠が「馬鹿野郎ーー!」って降りてきて。私たちは怒られるのは怖いけど、でもちょっとおかしくてしょうがない。火が付いちゃって燃えちゃったんだからさ。そういうことがずいぶんとありました。なんかドラマみたいでしょ(笑)。

――師匠のお人柄だと思いますが、失敗話もおもしろくなっちゃう。

あと楽屋の中でも稼ぐのが上手いんですよね。楽屋でチキンラーメン売ってたの僕だけですよ。60円で買ってきてそれを1杯100円で売ったのかな? 

みんな腹減って入ってくるんですよね、(林家)三平さんとかね。「お腹空いたなー」「何か食いに行かなくちゃ」なんて言ってるから、片手鍋買ってきて、楽屋のコンロ使ってチキンラーメン作る。そしたらみんな買ってくれて、三平さんなんか「1000円でいいから」って言ってくれて。結構儲かるなと思ったら、(三遊亭)圓生師匠が「なんですか、この匂いは?着物に付きやす」ってダメになっちゃった。これも伝説になった。

――ビジネスの感覚がそこから始まってたんですね。

でも別に一人で稼いだんじゃなくて、儲けたお金でおそばをとって前座同士で食べたりなんかしてたんですよ。おごってくれる人だ、って思わせて(笑)。

落語家必須の小道具、扇子を携えて
落語家必須の小道具、扇子を携えて

――本を読んでいて思ったのが、師匠は、ビジネスのためのアイディアを出したりチャレンジするのはすごく好きだけど、お金自体にはあんまり執着がないのかなと。

商売が始まっちゃうとね……人に渡してやってもらってましたね。ラーメン屋27店舗やってるんですけど、そういう人はいないんですよ。