商品のローカライズと商品自体の訴求力が重要

では、ここからはゼンショーの世界戦略についてうかがう。

「ゼンショーは欧米を中心に、寿司のテイクアウト店を運営する会社を次々と完全子会社化しています。2018年10月には米国、カナダ、オーストラリアで運営するAdvanced Fresh Concepts Corp.、昨年5月にはドイツで運営するSushi Circle Gastronomie GmbH、さらに昨年9月には北米やイギリスを中心に日本食事業を行う運営会社の持株会社SnowFox Topco Limitedと、3企業の子会社化を行いました。

ゼンショーが海外店舗数を1万店規模に拡大できたのは、このような海外の寿司店の買収が大きな要因でしょう。欧米では日本の回転寿司のスタイルを前面的に海外に持ち込むというよりも、海外で受け入れられやすいカリフォルニアロールなどの寿司スタイルの企業を買収し、世界で展開しているのです」

時価総額1兆円超え「すき家」「はま寿司」を運営するゼンショーの世界戦略のカラクリ。日本の外食産業が世界の胃袋を掴んだ「仕入れ力」とは_3

日本食文化を押し付けるのではなく、適切にローカライズしていく前提で世界進出しているということか。では、ゼンショーの稼ぎ頭である、すき家の海外展開はどうだろうか。

「すき家は中国を中心としたアジア圏をメインに、世界で650店舗以上を展開しています。一般的に中国に進出する場合、中国企業との合弁、もしくはフランチャイズという形で、どちらかというと中国企業が実権を握りながら運営していく形が多いもの。しかしゼンショーは、すき家を中国展開する際は、現地に全権をゆだねるようなことはしていないのです」

中国の消費者や市場環境に合わせて現場ベースでは現地主導にはしているものの、ゼンショー側が中国で馴染みのある「ごまペースト」や「上海蟹」などの食材を取り入れたメニューの開発などを行っており、しっかり大枠の舵取りをしているという。

「余談ですが、牛丼は『吉野家』がアメリカで1973年から海外店舗展開をスタートさせ、その後に台湾からアジア、そしてヨーロッパへと進出させていったという歴史があります。そのため海外で牛丼は日本食というイメージがあまりなく、『ビーフボウル』の愛称で現地の食文化に組み込まれ、親しまれているのです。

時価総額1兆円超え「すき家」「はま寿司」を運営するゼンショーの世界戦略のカラクリ。日本の外食産業が世界の胃袋を掴んだ「仕入れ力」とは_4

海外で敷居が高いと感じさせる寿司とは違い、ビーフボウルは中価格帯のカジュアルな商品というイメージが浸透しているからこそ、海外でもチェーン展開しやすくなっているといえます。世界で事業を展開するには、牛丼のようにその料理自体で勝負できる訴求力の高い商品であることも大切な要素になるのです」

ビジネスモデルのコアとなる商品力の高い料理がありつつ、バランスよく現地の方々に好まれるローカライズができるかどうかが、世界で戦ううえで重要になるということなのだろう。