「成功」するから止められない矛盾

たしかに、高橋財政期には、他国に先駆けて大恐慌から脱出できた。しかも、国債の売却による資金の吸い上げがうまくいき、財政膨張にもかかわらず物価は安定していた。

だが、この成長と物価の安定という「成功」は、とんでもない問題を引き起こした。というのも、本当の意味での「政策の止めどき」を政治がなくしてしまったのである。

想像してほしい。物価が上がらず、景気が順調に回復する状況のなかで、なぜ、みなが喜ぶ財政出動を止める必要があるだろうか。軍事費を増やせと訴える軍部をどうやって説得すればよいだろうか。

高橋は緊縮財政への転換を叫んだ。だが、劇薬とも言うべき日銀引受については、まったくその中止を語らなかった。そして、景気刺激のために始められた日銀引受は、国際情勢の緊迫化とともに、軍事費をひねりだす道具と化し、戦時財政への道を準備した。そう、「成功」こそが「失敗」の最大の原因だったのである。

現在、物価がじわじわと上がり、さらなる円安が懸念され、軍事的な緊張が強まっている。そんななか、参院選をめざして、現金給付や消費減税が提案されている。

論理的にはありえないのだが、バラマキ論者が訴えるように、インフレ下でのバラマキが、インフレを加速させず、穏やかな経済成長をもたらすとしよう。そうだとすれば、日銀は利上げを実施する動機をなくすし、給付や減税への抵抗も消えるだろう。もはや、なんでもあり、である。

高橋財政の成功ではなく、失敗に学ぼう。当初は、景気対策、コロナ対策の名目でバラマキの幕が切って落とされる。だが、いずれは防衛費をGDP比で2%に高めるため、さらには核共有を進めるためなど、さまざまな理由で財政は膨らんでいくだろう。だが、かつてそうした政策の積み重ねの先にあったのが世界大戦であり、その結末が敗戦とハイパーインフレだったのである。