【映像】キャラクターの心情を表現した効果的なアニメーション

原作の再現度の高さは映像のスタイルにも表れています。例えば、コミックスのコマ割りや構図を引用したカットが多数用いられていたり、原作の絵を基にしたイラストや枠線・トーンなどを駆使したアニメーションが用いられていたりするのです。

特に後者のアニメーション表現は、キャラクターの心情を表現するのにとても効果的なアクセントになっています。1話「出会い」のチャーリーとニックがはじめて出会うシーンでは、実写映像の上に落ち葉のイラストが舞っているアニメーションが重なっています。

ほかにも、2話「恋心」でニックがチャーリーの手を握ろうとするシーンでは手の部分にパチパチと火花が散るようなアニメーション、3話「キス」ではじめてニックとチャーリーがキスをするシーンでは花が舞っているアニメーションなど、キャラクターたちの感情が動く要所要所のシーンに表現されています。

イギリス発の青春BL!Netflix『HEARTSTOPPER』4つの魅力_4
ニックとチャーリーの近づく手に火花が

コミックスで描かれている表現を実写で再現していることはあるのですが、このような効果的なアニメーションが入ることで感情の“揺れ”をより感じ取ることができます。キスシーンで花が舞っているのを見ると、「心に花が舞うほど喜びに満ちているんだな〜」と心がポカポカするんですよね……。

さらにアニメーションに加えて、シーンによって映像のカラーコレクション(映像の色彩補正)やフレア(光の反射)を取り入れる表現も駆使しています。原作の再現度を高めるために、実写ででき得る限りの映像表現を詰め込んでいる。本作に関わるクリエイターたちのこだわりも感じられるのです。

【音楽】ドラマを最大限に盛り上げるZ世代のアーティスト

最後に紹介したい本作の魅力は、劇中に流れる数々の音楽です。音楽は、原作にはないドラマならではの要素。各話ごとにアメリカ、イギリスなどのアーティストの楽曲が複数流れます。なんといっても、この楽曲センスが素晴らしい。

1話冒頭に流れるのは、南アフリカ出身ロンドン在住の24歳、ベイビー・クイーンの「Want Me」。物語の幕開けを彩るかのようなエレクトロサウンドとキャッチーなメロディが印象的な本楽曲ですが、チャーリーの胸の内と重なるかのような切ない歌詞が綴られています。

2話で女子高に転入したエルが友達をつくろうと悩むシーンでは、ノルウェー出身の23歳、ガール・イン・レッドの「Girls」が流れます。爽やかでゆったりとしたギターサウンドと、自身も同性愛者であるガール・イン・レッドが綴る同性愛についての歌詞。エルが「友達になりたい」と見つめる目線の先にいるのは、後にレズビアンだと分かる「タラ」とダーシーです。先のストーリーを見越しての選曲なのか否か……楽曲を知っていた方の中には、意味深に捉えた人もいたかもしれません。

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ほかにも、フィリピン出身の22歳、ビーバドゥービーやイギリス出身の24歳、ローラン・ヒバードなど、多くのZ世代アーティストたちの楽曲が起用されています。

作品に登場するキャラクターたちのティーンエイジャーならではの悩みやセクシャリティに対する繊細で複雑な心情を表現したかのような歌詞、青春ドラマに相応しい爽やかなポップチューンは、若い世代のアーティストだから生み出せるのだと感じます。

ドラマを最大限に盛り上げてくれる楽曲たちにも、ぜひ注目して見てほしいです。

心温まる物語を体験してほしい

イギリス発の青春BL!Netflix『HEARTSTOPPER』4つの魅力_6

原作1巻の巻末には、原作者のアリス・オズマンがこのようなコメントを記しています。

“読者の方々がこの作品を読んでくれる理由はそれぞれです。ロマンスが読みたい、LGBTQ+への共感、画が好きだから、話が好きだから。でも、多くの読者が『HEARTSTOPPER』に惹かれる理由は「心が温まる感じ」じゃないでしょうか。私がそうだからです。”

主人公たちが自身のセクシャリティに悩むシーンはあるものの、キャラクター同士の友情や愛情に満ち溢れた関係性や、作品そのものが非常に明るくポジティブなトーンやテンポで描かれているため、アリス・オズマンのコメントの通り、まさに見ていると心が温まるのです。

シーズン2・3の制作も決まり、さらなる盛り上がりを見せるはず。各話30分前後と非常に見やすい長さなので、サクッと見られるのもポイント。今から見ても遅くはないので、ぜひ本作を見て心を温めてみてはいかがでしょうか。

文=阿部裕華