チャンスを逃さず、ベストを尽くす

『タップス』の後、トムの出演作には『卒業白書』(1983)、『トップガン』、『ハスラー2』(1986)、『レインマン』(1988)『7月4日に生まれて』(1989)、『デイズ・オブ・サンダー』(1990)が並びます。このリスト、信じられますか? これだけの作品を自分に引き寄せるのは、並大抵のことではありません。

「チャンスを逃さない」、「チャンスをつかんだら全力でチャレンジする」、「ベストを尽くす」という言葉は、トムのインタビューで何百回も聞いています。

難読症の克服、『タップス』での大抜擢、3度の離婚……。大スター、トム・クルーズの知られざる素顔_6
『卒業白書』共演のレベッカ・デモーネイ(左)と
Everett Collection/アフロ 

『卒業白書』のインタビューですでに、80〜90年代を走り抜けるトップスターになる、彼なりの哲学がうかがえました。22歳のときです。

「今はスーツケースの中に住んでいるようなもの。NYに落ち着きたいけど、NYに帰ろうとするとハリウッドでの仕事の声がかかる。やりたいと思う仕事に恵まれたら自分のすべてを投じてチャレンジする。それは自分への挑戦であり、見た人がどう思うかは関係ないんだ」

誰かから仕事のアドバイスを受けるのかと聞かれれば、こんな感じ。
「僕は自分でやりたいと感じるもの以外はどんなにギャラを積まれてもやらない。すべて自分で決める。人からアドバイスは受けないんだ」

難読症の克服、『タップス』での大抜擢、3度の離婚……。大スター、トム・クルーズの知られざる素顔_7
『ハスラー2』右は主演のポール・ニューマン
mptvimages/アフロ 

『ハスラー2』でも、「僕のアパートにはベッドと仕事用のデスクしかない。だからアパートに(役作りのための)ビリヤード台を入れるのは簡単だったよ。僕はたくさんのものは必要ないんだ。シンプルな生き方を目指している。定めた目標を見失わないようにしている。いい仕事をする、毎日何かを学ぶ。チャレンジを恐れない」と語っていました。

『卒業白書』の成功で変化したことを尋ねられたときも、「仕事に対する基本的な価値観はまったく変わっていない」と断言。
「人気が出るとか女の子に騒がれるといったことは、仕事の副産物であり、仕事を選ぶ基準にはならない。僕はアクターとしてのキャリアを大切にしている。出演作品と関係ない“トム・クルーズ・ポスター”とかは絶対に出さないんだ。ファンの部屋の壁を飾るポスターのために仕事をしているわけじゃないから」

徹底した作品至上主義。あの明るい笑顔の裏側には鉄の意志が息づいているのです。