知名度を上げるために…もうひとつの作戦とは

話は5年ほど前に遡る。2021年のリニューアル計画とは別に、もう一つ松本さんにはやっておきたいことがあった。それは“松本湯の知名度を上げていく”こと。リニューアル工事や設計を視野に入れつつ、それに先立ちスタートさせたのは「イベント」だった。

「最初にやったのは『熱波』のイベント。“アウフグース”っていうんですが、サウナストーンにロウリュして発生する蒸気を体に向けて仰ぐと、一気に体感温度があがってものすごく発汗するんです。
これが気持ち良くて。もともと知り合いだった熱波師さんや、さらにご縁ができた熱波師さんに来てもらい、それを告知していきました」

この熱波イベントが回を重ねるごとに、松本湯にはサウナ愛好家が続々と集うように。

「愛好家さんたちといろいろ話すようになって。どんなサウナが気持ちいいかを尋ねてみたり、“こんなイベントもできたらいいよね”とか。私からも『こんなサウナにしたいんだ』って相談して意見を聞いたりもして。集客や宣伝効果もそうだけど、そうした“サウナ仲間が増えた”というのも、とても大きかったですね」

熱いサウナ愛。その思いに共感して心強い仲間が!

そんな“仲間”の一人が蒸しゴリくん。サウナが大好きで、東京都内のサウナ施設約400か所を1年半で制覇した、サウナ界隈では有名な存在だ。現在、会社員として働きつつ、スタッフとして主に夕方以降、松本湯をサポートしている。

「レジェンドゆうさんという熱波師さんから、2017年くらいに松本湯の存在を聞いて。僕はサウナのほかにキャンプも好きで、当時からテントサウナを楽しんでいたんですが、基本、大自然の中でやるじゃないですか。だから実はテントサウナをやった後って…銭湯に寄って、もう一度汗を流してから帰ったりするんですよね(笑)。
そんなこともあって、2018年くらいに『松本湯の屋上でテントサウナを組めないですか?』って松本さんに提案したんです。ここなら終わった後に1Fでお風呂に入れる。水風呂も、銭湯でも使っているあの最高の地下水をプールに貯めて楽しめる。もう、最高じゃないですか、って(笑)」(蒸しゴリくん。以下同)

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蒸しゴリくん。全国を回る生粋の愛好家。これまでに印象に残ったサウナを聞くと「熊本の『八代センターサウナ』ですかね」とディープな答えが

松本さんも即、賛同し、実際にイベントとして開催したところ、これも大成功。1ヵ月に2~3回のペースで1年間、およそ50回ほど開催するうち、サウナ好きの間で、さらに松本湯の名は広まっていったそう。もちろんそうした交流の中、松本さんと蒸しゴリくんとの間では、リニューアルに関する会話や意見交換も活発にかわされてきた


「松本さんはすごい真っすぐな方で。“こんなサウナがいいと思う”とか、“水風呂はこういうのを実現したい”とか、アイデアを熱く話してくれるんで、こっちも真っすぐに答えますよね(笑)。
『それはいいですね』『実現できたらすごいっす!』って。アドバイスとか提案というほどではないんですが、僕自身がいいなって思うこともいくつかお伝えもしました」


筋金入りのサウナ好き同士の熱い交流により、知見やアイデアがどんどん膨らんできた。実際にどんなことを提案されたのかを聞くと


「たとえば、以前の・・・旧松本湯で使っていたもので残せるものはそのまま残したら? とかですね。現在、受付の横の待合スペースにあるステンドグラスは創業以来のもので、あれはぜひ残すべきじゃないか、とか。
あとは、サウナ室の壁に輻射熱(※壁に反射して返ってくる熱)が楽しめるように石が貼ってあるんですが、それも旧松本湯のサウナ室の壁のものを捨てずに再利用されています。同じ材質のものが今はもう入手できないって聞いたんで、あれは残したいですよねって。『けっこう大変で、逆にお金がかかった』なんて言われちゃいましたけど(笑)」

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受付奥の休憩スペース。左に見えるのが、創業時からあるステンドグラスだ