現代日本でも生きている
「丑の刻参り」の伝統

佐藤 場所によっては、信仰心のかたまりみたいなところがありますよ。すごいのは、京都の貴船神社。紅葉がきれいなことでも有名ですけれど、あそこは怖いところですよ。絵馬を見ると、「私の夫と不倫している××××が狂い死にますように」などと実名、住所入りで書いてあったりするんです。逆に「彼が奥さんと別れてくれますように」というのもある。

本村 へえ、そういう神社なんですか?

佐藤 丑の刻参りの発祥地だと言われていますね。だから奥に行くと、御神木に藁人形が五寸釘で打ちつけられていたりするんです。器物損壊罪になりかねないんで、本当はやっちゃいけないんですが、それでも後を絶たないんですから、よほど効くと信じられているんでしょうね。

本村 藁人形って、どこで手に入れるんですかね(笑)。

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貴船神社

佐藤 ふつうにアマゾンで売っていますよ。昔はけっこう高くて、4000円ぐらいしたんですが、最近は安くなっていて、1000円以内で買えます。「呪いのロウソク&金槌付き」とか、使い方を教えるDVDとセットとか、バリエーションも豊富です(笑)。

本村 よくそんなことまで知っていますね(笑)。しかしまあ、近代社会といっても、人間の心はそんなに古代と変わっていないのかもしれません。ローマのお墓なんか見ると、「この墓に手をつけた者に災いあれ」などと刻まれていたりします。「小便を引っかけるやつはとんでもない。どうせなら酒を引っかけてくれ」とかね(笑)。

佐藤 要求が具体的で面白いですね(笑)。

本村 中世のキリスト教社会になってからはそういう呪術的なものは少なくなったでしょうけれど、たとえばアヴィニョンに教皇庁をつくったヨハネス22世というローマ教皇(在位1316~1334)は、対立していたミラノ大司教のジョヴァンニ・ヴィスコンティに呪いをかけられそうになりました。

ヨハネス22世の彫像をこしらえて、それを火で焼くよう呪術師に頼んだんですね。結局、呪術師はそれを断ってアヴィニョンに密告したんですけれど。いずれにしろ、そんな聖職者レベルでも本気で呪いの類に手を出していたわけです。世間ではもっと広く行われていたでしょうね。