「写真は本来、簡単にわかる説明的なものではない」

「プロのカメラマンが本気で撮った写真は、どこまで人々の心に伝わるのか」。そんな思いからスタートしたプロジェクトが「Negative Pop(ネガティブポップ)」だ。

今や写真や動画の撮影は、スマートフォンなどを使えば誰もが簡単にできるようになった。中にはプロ顔負けの作品を撮る人たちもいる。そんなプロとアマの垣根がなくなってきている時代に、あえて"プロの写真とは何か"を問いかける。

Negative Popに参加しているカメラマンの丸谷嘉長氏が語る。

「今、SNSなどにアップされる写真は『きれい』『かわいい』『おいしそう』......など、誰もが簡単にわかる説明的なものが多いように感じます。しかし、写真は本来、簡単にわかる説明的なものではないと私は思っています。

例えば、人が笑っている写真があっても、その人は心の中では悲しんでいるかもしれません。写っているものが真実かどうかわかりません。私は、そんな"わかりにくさ"が写真の良さだと思うんです。

そして、その写真の奥にあるメッセージ、例えば『この人は笑顔だけれども、実は心は悲しんでいる』を表現するのがプロのカメラマンじゃないでしょうか。『この人は笑っているけど、なんか悲しそうな目をしているな』など、その写真からメッセージを感じてもらえるかどうかが重要なんだと思います」

「プロの写真とは何なのか?」 プロカメラマンによる本気の写真展『置き去りの記憶』が東京・赤坂で開催中_1
「Not everything you see is always true」より (C)丸谷嘉長
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そんなプロたちが撮った写真展『置き去りの記憶』が、3月4日(月)から3月30日(土)まで、東京・赤坂の「Bar山崎文庫」で開催される。

――『置き去りの記憶』というテーマにした理由は?

丸谷 今撮った写真は1秒後には過去のものになります。その過去に撮ったものを未来に行なわれる写真展で発表するわけですから、その写真は撮ったときに"置き去りにされた記憶"です。難しい言葉を使っていますが、簡単にいうと『カメラマンの写真に対する思い』という意味です。

――そこで、丸谷さんはどんな写真を展示しているんですか?

丸谷 実は10年くらいずっと撮りたかったテーマで『亡き父との愛憎』です。私は、Negative Popでは、これまで被写体である俳優さんとカメラマンである私の化学反応を全面に出してきました。しかし、今回の作品は私の思いを90%以上詰め込んでいます。こんな作品は初めてです。

撮影場所は青森。私は初めて津軽三味線の『津軽じょんから節』を聞いたときに『妬み』『嫉み』『夢』『希望』『愛情』などがこの曲の中に全部入っていると感じました。

そして、決して友好関係ではなかった亡き父を思い返して『妬み』『嫉み』『憧れ』『愛情』など様々な感情があったことに気づき、『これって津軽じょんから節だな』と思ったんです。だから、撮影場所は青森にしました。

また、目をつぶって『津軽じょんから節』を聴いていると、雪原をさまよっているビジュアルが思い浮かびました。ですから、今回の作品も雪原で撮っています。さらに『津軽じょんから節』には、高音で激しく荒れ狂うように弾く部分があるんですが、それは俳優さんの顔に雪がへばりついているアップのカットで表現しました。

撮影時の青森の天気は、晴れていたと思ったら雨が降るし、雨かと思ったら雪に変わり、最後は地吹雪です。大変ではありましたが、なんだか『これって人生に似ているよな』ということも感じたりしました。

この作品は、私の『10年前の置き去りの記憶』なんです。父親が亡くなった日に置き去りにした記憶です。