終身雇用が揺らぐ日本、レイオフが普及する可能性も…
現在日本ではレイオフはアメリカほど浸透していないが、それには解雇に対する労働法の厳しい規制が関係しているという。
「日本には『解雇濫用法理』といって、労働者を守るために会社からの一方的な解雇を制限する基本的なルールが存在します。このルールに違反した解雇は労働契約法16条によって無効とされます。長年、終身雇用が前提となっていた日本において、理由もなしに解雇を通達するようなことは不当解雇として扱われるのです」
しかし、倉重氏は日本の高度経済成長を支えた制度のひとつである終身雇用制が揺らぎかねない昨今の様子から、今後解雇のかたちが変わっていく可能性はゼロではないと指摘する。
「先ほど説明した『解雇濫用法理』は、企業が定年まで社員を雇う終身雇用制を想定して考えられたものです。しかし昨今の若者の間では転職が当たり前だったり、ずっと同じ企業に勤めることを逆に不安視したりする傾向が強いのです。高度経済成長期と違って経済状況も不安定ななか、大手企業にいれば一生安泰だという価値観も揺らいできています。
そういった背景もあるので、時代にそぐわない法やルールであれば、今後変わっていく可能性もゼロではない。とはいえ、政府が終身雇用を否定するような法改正をすれば支持率の低下に繋がるので、そう簡単には変わらないとは思う一方で、大手企業の崩壊が始まってから手を打つようでは遅いのではないかとも思います」
2019年に経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長が、終身雇用制の維持が難しくなっていると発言し、これまでの雇用の価値観が揺らいできているのは明らかだ。
さらにはITやAIの進化で、長く働くことではなく、労働生産性や効率が重視される世の中になった。こうした働き方の価値観が変化している今、アメリカのようなレイオフが、今後日本で取り入れられるようになっていくこともあるのかもしれない。
もしも、ある日突然レイオフされたらどうする?
もし日本でも今後レイオフが一般的になる未来が来るとしたら、レイオフ後どう対応すればいいのだろうか。
「レイオフは一時的解雇といえど、業績が回復して再雇用してもらえるのがいつになるのかわからない、先が見えない状態となります。そのためレイオフの期間中に転職することが一般的だと思いますが、その間収入が途絶えることに不安を覚える人も多いでしょう。しかし失業保険をもらうことで求職活動を続けられますし、レイオフは会社都合の解雇であるため退職金や一時金をもらえる場合もあります。
転職だけでなく、起業を考える方や、休職してゆっくり自身の今後のキャリアについて考える期間にする方など、レイオフ後の道はさまざまあると思います。これからの時代に大事なのは、突然解雇通知をされても困らないように、個人のスキルを高めて、企業に依存しない意識を持つことではないでしょうか」
取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio 写真/shutterstock