書籍にして怪文書を全国にバラ撒く

–––梨さんの考える怪文書の魅力とは、どのようなところにあると思われますか。

 「怪文書」というものは100年ほど前くらいから出てきたのではないかと考えられます。政治的な主張であったり、個人に対する誹謗中傷だったり、内容はさまざまなのですが、共通点としては「支離滅裂な文章ではない」ということです。

書き手は、文書にして発信するべきだと思えるくらい重要なことを真剣に書いている。出版物など複数の人の目に触れてから出てくる文章にはない、個人の強い思いや独自の論理が展開された文章であるところが魅力だと思っています。場合によっては、既存の文法も超越した、その人ならではの文体で書かれていることもある。書き手の思考に直接触れられるところがいいですよね。

「怪文書を壁一面にベタベタ貼って、通行人を嫌な気持ちにさせたい」伝説的イベント『その怪文書を読みましたか』の仕掛け人に聞く、新しいホラーエンタメの形_06

高木 展覧会では怪文書の説明として「怪文書:意味不明な主張をしている文章のこと。内容は誹謗中傷や被害妄想、非現実的なものが多い。ほとんどが根拠不明で誤った情報を元にしている」と書いています。でも、本当にそうなのか?ということを考えてもらうのが、怪文書展の狙いです。

怪文書って一見意味不明なことが書かれている、不気味なものですよね。通常であれば笑い飛ばしたり、気持ち悪がったりするだけで通り過ぎるもの。でも、一連の怪文書を読み解いていくと、書き手にとっては真実であることを、切実に訴えるために書いていることがわかってくる。考察することで、自分たちは偏見を持って怪文書という情報に触れていたのではないか、と思えてくるんです。

–––今回、怪文書展が書籍として発刊されました。担当編集者の原沢さんは、なぜこのイベントを本にしようと思われたのでしょうか。

原沢麻由(以下、原沢) 私は怪文書展の会場に行ったら、整理券の配布が終了していて中に入れなかったんです。ガラスに貼り出された怪文書を外から見ながら、悔しがっていた一人です。そうした私のような、「怪文書展に行きたいけど行けなかった方に届け!」という想い……いや怨念を込めて制作しました(笑)。

 場としてのおもしろさを体験してほしい気持ちはありつつ、足を運べなかったたくさんの方にも届けたいという気持ちもあったので、書籍化できてよかったです。

原沢 はじめて見る方はもちろん、現地に行ったうえで怪文書を1枚ずつじっくり見たいという方にも満足いただけるのかなと。会場では貼り方が巧妙で、一部重なっていたりして、すべてが見えないようになっていたところもあるんですよね。

 書籍は図録のようなもので、フルカラーですべての怪文書が見られるんです。展覧会は一部を除いて写真撮影がOKだったので、ネットには怪文書の写真がたくさん上がっているんですけど、本を手にとってみて「やっぱり紙は違う」と感じました。印刷などもすごくこだわっていて、質感が伝わってくるんですよね。ページとページの間から瘴気(しょうき)が立ち上る感じというか……「紙になってしまった」という印象を受けました。

「怪文書を壁一面にベタベタ貼って、通行人を嫌な気持ちにさせたい」伝説的イベント『その怪文書を読みましたか』の仕掛け人に聞く、新しいホラーエンタメの形_07
書籍『その怪文書を読みましたか』(太田出版)より抜粋
「怪文書を壁一面にベタベタ貼って、通行人を嫌な気持ちにさせたい」伝説的イベント『その怪文書を読みましたか』の仕掛け人に聞く、新しいホラーエンタメの形_08
書籍『その怪文書を読みましたか』(太田出版)より抜粋
「怪文書を壁一面にベタベタ貼って、通行人を嫌な気持ちにさせたい」伝説的イベント『その怪文書を読みましたか』の仕掛け人に聞く、新しいホラーエンタメの形_09
書籍『その怪文書を読みましたか』(太田出版)より抜粋

原沢 ただ再録するだけでなく、本として読んだときに怖く、おもしろく感じるような仕掛けも施しています。怪文書を日本中にバラ撒いてやろうという気持ちで作りました(笑)。

 ありがたいことに重版も決まって、続々と怪文書が量産されています。うれしい限りです。


インタビュー・文/崎谷実穂

【#2】 「読者に被害者になってもらうことで、当事者性を持たせたい」ネットホラーの寵児・梨が考える、この世で最も怖いと考える“恐怖の根源”とは?

その怪文書を読みましたか
梨、株式会社闇
才色兼備のホットプレートにひとり用食洗機…人生と生活が激変する最新便利家電5〈家電芸人・かじがや卓哉が熱推し〉_12
2023年12月12日
2420円(税込)
A5判/128ページ
発行:太田出版
ISBN:978-4-7783-1900-7
チケット即入手困難、渋谷を騒然とさせた伝説の展覧会、禁断の書籍化

展示された怪文書100点以上を大収録!
誰が、どこで、なぜ、この“怪文書”を書いたのか──

掲載されている「怪文書」は、全てフィクションである。
なぜこれほどしつこく忠告するかといえば、端的に危険だからだ。
──ダ・ヴィンチ・恐山

※この書物は普通ではありません

■怪文書(かいぶんしょ)
“ 意味不明な主張をしている文章のこと。
内容は誹謗中傷や被害妄想、非現実的なものが多い。
ほとんどが根拠不明で誤った情報を元にしている。”
──本当にそうなのでしょうか?
amazon 楽天ブックス honto セブンネット TSUTAYA 紀伊国屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club

『その怪文書を読みましたか』刊行記念トークイベント in 大阪ロフトプラスワンウェスト

出演者 梨 , 株式会社闇・高木 , 背筋(リモート出演)
開催日  2024年1月21日(日)
開場日時 12:00  開演日時 13:00
会場 Loft PlusOne West (大阪府)

《会場チケット》
前売¥2,000 / 当日¥2,300(+drink)
会場チケットはLivePocket(https://t.livepocket.jp/e/e3g4m)にて発売中
《配信チケット》¥1,500
配信チケットはキャスマーケット(https://twitcasting.tv/plusonewest/shopcart/283663)にて発売中
※アーカイブは2月4日 22:00まで購入可/2/4 23:59まで視聴可能

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大阪展
場所 心斎橋オーパ 9F OPA GALLERY
開催日 2024年1月13日(土)〜1月28日(日)
時間 11:00〜21:00(最終入場20:30)

博多展
場所 hmv museum 博多
開催日 2024年3月16日(土)〜3月31日(日)
時間 11:00〜21:00(最終入場20:30)

料金 体験 1,200円(税込)
注意事項 土日祝日のチケットは日時指定制です。
     平日券では入場できません。予めご了承ください。

WEB https://yomimashitaka.com/
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