小舟に乗って夜から朝へ心の中を旅する心理学エッセイ
心理士として15年、現代人の心の問題に向き合ってきた著者がカウンセリングのさまざまな事例をもとに自分自身の思いをつづり、複雑な人生の問題を整理するための「補助線」を引く心理学エッセイ。
これはとっても不思議な本だ。まるで外国の童話を読んでいるみたいでもあり、臨床心理士が普段カウンセリングを行う中で感じたことを書いたエッセイでもあり、傷つきながら自分の心を見つめて心の問題を乗り越えたあるカップルの恋愛物語でもある。そしてすべてはあなたの心へと語りかけられるメッセージ。不思議だけどそんな1冊なんです。
昔に比べていろいろな生き方が認められるようになった今は個人の時代になりすぎて、小舟で海に漂っているようなものだと東畑さんは言う。つまり私たちは自由だけど弱くて頼りなく、少しの風でもぐらついてしまう。そんなときにはカウンセリングを受けるのも手だけど、まずはこの本で東畑さんをガイドに一夜の船旅に出てみよう。自分の心を理解すること、誰かとつながること――夜が朝になっていくように、つらい気持ちに少しずつ光が差し込むのを感じられるはずだ。
日常を少し特別にしてくれる「ショートケーキ」。どこか寂しさ、生きづらさを感じて暮らす主人公たちは、そんな穴を埋めるために今日もショートケーキを食べる。読後はちょっと優しくなれる、5編の連作集を召し上がれ。
根暗、映え、陰キャ、わかりみ……っていつ生まれたんだっけ?逆に、"禁句"になったあの「ことば」はなぜ消えた?時代とともに変遷していく言葉にフォーカスし、日本人の意識や社会的背景を掘り下げるエッセイ。
「出会い」がテーマの全3編を収録した作品集。小児病棟を舞台にした表題作「夏の体温」では、小学3年生の主人公が抱える感情がまっすぐ描かれている。出会いが人にもたらすポジティブな変化に勇気をもらえる1冊。
2022年7月号掲載
選書・原文/花田菜々子 web構成/轟木愛美 web編成/内山英理