「割り切れない」を諦めない
うだつのあがらない大人と、周囲が手を焼く「問題児」たち。幼い頃からこの組み合わせが大好きだった。子供たちの一挙一動に振り回される大人の姿を見て笑い転げ、自分もまた、彼らと同じように混乱を巻き起こせる存在であることを誇らしく思ってもいた。
でも、いつのまにか笑って見られなくなったのは、要するに自分が「大人」になったってことなんだろう?――そんなふうに、割り切って理解してしまえる人にこそ本書のページをめくってほしい。おそらく人生のどこかで手放してしまった無数の小さな熱や光を、ひとつひとつ拾い集める旅になるだろうから。
物語の主人公・リリアンは、レジ打ちの仕事を掛け持ちしながら日々を食いつないでいる若い女性。二十八歳にして実家の屋根裏部屋で寝起きする人生に倦んでいたところへ、旧友から奇妙な仕事の依頼が届く。聞けば、夫の前妻の遺児である十歳の双子の姉弟の世話をしてほしいとのこと。ただし、その双子は、興奮したり動揺したりすると文字どおり発火する特殊体質であるという――。にわかには信じられなかったリリアンだが、実際に双子が鮮やかに燃えあがるさまを目の当たりにし、なかば巻き込まれる形で彼らと寝食を共にすることになる。
彼らは生まれ育った邸宅に再び引き取られたものの、日がなプールに閉じ込められ、許可なく母屋に立ち入ることも許されない。家族の安全を守るためといえば聞こえはいいが、その「家族」の中に双子がカウントされていない実態にリリアンは複雑な思いを抱く。かつて自分も、必死で手に入れたはずの楽園からあっさりと切り離された過去があるからだ。
では「大人」になってしまえば傷口は癒えるのか。その答えをすでにいやというほど知っているリリアンは、これまで目を瞑ってきた「割り切れなさ」と正面から向き合うことで、彼らを当然のように疎外する「社会」の輪郭のほうを根気強く解体していくのだ。
脇役という言葉を用いるのが躊躇われるほど個々のキャラクターが魅力的な小説だ。いずれも聖人君子とは程遠いけれど、誰ひとりとして他人の物語に従属しない。その猥雑な頼もしさが、めぐりめぐって誰かの生を押し広げていく。