密造酒のウオッカ

久々にインタビューをし終わってから充実感を感じた。こういう素晴らしいミュージシャンがいる。彼はこの後も国内を移動し続けるのだろう。彼は決して、よくありがちな、にわか愛国者みたいな歌い手ではないし、音楽を愛する1人の人間だ。

自由と権利が蹂躙された時に、ひとはどのような態度をとるのか。そういう問いを投げかけられたように思った。だから、僕にとってはやっぱり「ウクライナの清志郎」だ。

宿舎のレストランで早めの夕食をとっていたら、レストランの支配人みたいなおじさんが、えらく歓待してくれて、店の奥からサマゴン(密造酒のウオッカ)を出してきて、僕らに出してくれた。これが効いた。まいった。水をガンガン飲んだ。いい気持ちになっていたところに、20時37分、今日2回目の警報が発令され、僕らはまたシェルターへ。まいった。

クレヨンがシェルターに置かれていて、子どもたちが壁に絵を描き出している。「ウクライーナ、ウクライーナ」と口ずさみながら、国旗のカラーの青と黄のクレヨンで何かを描いている。

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そして、何と戦車の絵を描き出した。驚いた。この戦車は何を象徴しているのか。かなり昔、フリーランスのジャーナリスト遠藤正雄さんと共にアフガニスタンの戦争孤児たちのシェルターを取材した際に、そこの子どもたちが描いていた絵に、飛行機、爆撃機があったのをみて衝撃を受けたことを何故か思い出した。21時30分に警報解除。やれやれ、だ。

国連総会の緊急特別会合で、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議が賛成多数で採択された。賛成は193カ国中、141カ国。反対はベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5カ国、棄権は中国やインドなど35カ国だったという。ある種わかりやすい数字だ。21時47分、オルガからキエフ駅の庁舎ビルが爆破されたとの情報。

ということは、TBSニューヨーク支局のチームはギリギリの段階でキエフ発の列車に乗り込んだことになる。部屋に引き上げて、眠っていたら、なんと真夜中の26時(つまり午前2時)に再び警報発令。まいった。急いで着替えてシェルターに向かう。こんな真夜中に。

警報音がより鮮明に聞こえる。さすがにまいった。体もだが、精神的に痛めつけられる。避難先のシェルターではさすがに皆黙りこくっていた。警報が解除されて宿舎に戻る途中に空を見上げると、星が本当に綺麗に満天に輝いていた。


写真/shutterstock

これが社会主義というものさ 1991年6月のロシア
戦争が始まったウクライナにて
2023年1月1日モスクワにて

ロシアより愛をこめて あれから30年の絶望と希望
金平 茂紀
「ビートルズがいなければソ連の崩壊は遅れていた」「国土を失ってしまえば何もかもなくなります」ウクライナの清志郎が日本人記者に語ったこと_4
2023年9月20日発売
1,056円(税込)
文庫判/480ページ
ISBN:978-4-08-744567-1

1991年ソビエト連邦崩壊。2022年ロシアによるウクライナ侵攻――
30年前と現在、変わったもの、変わらないものとは。
記者・金平茂紀が見た「大国ロシア」のありのままの姿。

1991年から94年、ソ連崩壊前後の激動の時代をTBSモスクワ支局特派員として過ごした著者が見たロシアの実態、そこに生きる人々との交流を書簡と日記形式で綴る。そして時は流れ、2022年ロシアはウクライナに侵攻する。開戦直後にウクライナを訪れた際の日記、22年~23年の年末年始にモスクワを訪れた際の記録を追加収録。著者の体験を通し、「大国ロシア」とそこで暮らす人々の本質に迫る。
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