心拍数を高める歩き方に変えたら
1日に平均8000歩、週5日もウォーキングを行っているのに、なぜ半数の人には、メタボリック・シンドロームの十分な予防効果があらわれないのでしょうか。
それを調べるために、歩行中の心拍数を測定しました。ある人の測定値を見ると、平均心拍数は約98で、ときどき100を超える程度でした。
24名それぞれについて、歩行中の心拍数の測定値から運動強度を導き出したところ、24名の平均値が37%となり、これは推奨される「50%以上の運動強度」を大きく下回っています(図3-10)。50%を超える方はわずかに2人だけという結果になり、さらに30%を下回る人が3割もいました。
もう少し詳しく、ウォーキングの運動効果について見てみましょう。24名のうち、ほとんどの人は分速75〜85メートル程度、時速にすると4.5〜5.1キロメートル程度と歩行速度があまり速くないことがわかりました。
また、ほとんどの人が平地のコースを歩いていたため運動強度が低過ぎたのです。このような散歩程度の運動強度は、身体や脳にとっては定常状態であり、糖や脂質の代謝が促進されないため、LDLやHDLコレステロールの数値が運動をしていない人と変わらないのです。高齢者でも運動強度がもっと高くなる分速90〜110メートル(時速5.4〜6.6キロメートル)の歩行速度を目標にすべきです。
私は、24名の方たちひとりずつに、各人の測定データと必要な運動強度を示して、歩くコースや速度を変更する運動指導を行いました。
ある人には、100メートルあたり6〜7メートル高くなる傾斜(勾配率6〜7%)の坂道を、上ったり下ったりする経路に変更してもらいました。そのさい、上り坂と平地では歩く速度をいままでどおりに、下り坂ではひざに負担がかかるのでスピードを落とすように注意しました。
経路を変更する前後の心拍数を比較すると、指導前は運動開始15分後からの約40分間、毎分110〜120拍でほぼ一定していました(この方は、安静時心拍数が高いため、これでも50%HRRに達していません)。それに対して指導後は、心拍数が急激に増えて140を超えるところが2ヵ所ありました。それは坂道を上っているときのもので、運動強度が増してたくさんのエネルギーが必要なため心拍数が上昇したのです。
別の人には、経路の数ヵ所の区間で、速度を上げて歩くようにお願いしました。たとえば、川にかかる橋から次の橋の間の350メートルを、指導前は4分30秒で歩いていましたが、30秒縮めて4分で歩いてもらいました。歩行速度を分速78メートルから88メートルほどに上げるように指導したのです。すると運動時間の大部分で心拍数が毎分あたり20拍ほど増えました。
24名の参加者それぞれにこのような具体的な運動指導を行い、週5日歩いていたうち、1週間に平均で2.7日、8週間、実践していただきました。
24名の方の平均の運動時心拍数は、毎分約98拍から108拍へと、10拍分(10%)ほど上がり、最高心拍数は、毎分107拍から122拍へと、15拍上昇しました。
歩行速度の平均値は指導前の分速87メートルから指導後は92メートルと速くなり、先述の歩行速度の目標、分速90〜110メートルに達しました。そして、運動強度は、指導前の平均37%から指導後には48%へと11ポイントアップし、推奨されている50%に近い運動強度となりました。