KEIO Mental #20
脳をだましてやる気にさせる
アウトプットは思っていなくてもいい
とても楽しい時、あなたの感情は動作や表情に表れます。逆に、苦しい時も同じです。好きなものを見た時、苦手なものを見た時、あなたのリアクションは異なります。
これは脳が「快」と判断するか「不快」と判断するかによって、あなたの動作や言葉のアウトプットが変わるからです。
この判断をするのが扁桃核という脳の中にある神経組織です。
五感を通じてある情報が脳に届けられると、扁桃核は快・不快を判断し、思考や言動に影響が及びます。
かわいい赤ん坊を見たら、自然と笑顔になり「かわいい」という言葉が出てくるのに対して、ゴキブリを見つけたときは眉間に皺がより「気持ち悪っ」と叫んでしまう。これは扁桃核が瞬間的に自分にとって心地よい情報かどうかを判断した結果が行動にあらわれているのです。
脳は入力と出力とでプログラミングされていると言われています。入力とは思いやイメージ、出力とは言葉、表情、態度などを指します。たとえば、何か嫌なイメージや思いを抱いて、否定的な言葉を口にすると、そのネガティブな言葉は耳から脳に入力されて、嫌なイメージや思いを強めてしまうのです。
脳はプラスの情報をインプットすると、肯定的なアウトプットをしてくれます。
先ほどのイチローさんの例ではありませんが、トップアスリートは、常に脳に対して肯定的な入力をしています。一般の人にはつらい練習だとしても、トップアスリートは脳に対して、「これは意味のある素晴らしい練習なのだ」などとインプットしているわけです。
一般の人とトップアスリートの練習の成果を比べたとしたら、結果は一目瞭然でしょう。
そこでまずはプラスの表情や言葉をリストアップしてみましょう。そして積極的にそのプラス言葉を発して、脳内の扁桃核にその情報を届けるようにすれば、感情はポジティブな状態になり、パフォーマンスを発揮しやすい状況がつくれるようになります。前にも書いたように、脳は現実とイメージを区別することができません。なのでピンチの時などは無理矢理プラスの言葉や表情などをアウトプットすればよいわけです。
たとえば、その日は雨で、練習をしたら服がドロドロになりそうです。そんな時に誰かが「練習だるいな」と口にした言葉を聞いてしまったら、すぐにプラスの言葉をかぶせるようにします。たとえば、
「こんな日に練習すれば、雨の日の試合に生かせるな」
肯定的なアウトプットをすることを習慣化するのです。決して本心から思っていなくても、口先だけでもいいのです。なぜなら、脳には入力(思いやイメージ)よりも出力(言葉、表情、態度)の影響を強く受ける特徴があるからです。
競技力を上げるためには、つらくて苦しい練習がつきものです。とはいえ、それが大切だとわかっていても、なかなかやる気は起きないものです。
「しなければいけない」と思った瞬間に、それが義務感やプレッシャーになります。ネガティブな感情の状態になってしまうので、それが行動意欲や行動力に悪影響を及ぼすのは想像に難くないでしょう。
たとえ、30分の練習でも、感情の状態がポジティブとネガティブとでは大きな差が出てしまうわけです。せっかくだったら、ポジティブな声をかけて、こんな練習なんてちょろいと脳に思わせましょう。そうしたら、こちらのものなのです。