遺伝によるリスクは2.4~5.6倍

最後に、前立腺がんのリスクが上がるのに最も影響があるのは、遺伝です。

遺伝はふだんの生活で対策しようがないことです。
近親者に、前立腺がんの人がいると、前立腺がんになるリスクが2.4~5.6倍に高まることが明らかになっています。

遺伝で前立腺がんのリスクが高いと思われている人はPSA検診で、前立腺がんを早期発見することができます。
PSAとは、前立腺で分泌されているタンパク質(PSA)のことで、前立腺がんになると血液中にPSAが増えるため、前立腺がんの早期発見のためのスクリーニング検査として1990年代から導入されてきました。

このPSA検査が普及したことによって、日本では前立腺がんが急増しました。
つまり前立腺がんになる人が増えたのではなく、検査によって見つかる人が増えたということです。

前立腺がんが早期発見できるので、いいことだと思われがちですが、実はそれほど単純なことではありません。

PSA検診によって前立腺がんの見つかる数は増えたのに、必ずしも死亡率が減っているというわけではないからです。

「前立腺がんはがんの中でも進行が遅いから、余計な検査である」
「過剰な診断につながって不安な思いをする人が多くなる」

という意見もあり、世界でもPSA検診の是非については結論がでていません。

そのためアメリカでは、PSA検診はメリットとデメリットを理解した上で、自分で検査を受けるかどうかを決めるようにアドバイスされています。

遺伝でリスクが高い人にとっては、PSA検診は早期発見、早期治療につながりますし、PSA検診をして、がんが見つかっても進行が遅いことからすぐに手術せず、PSA値が上がっていかないかをチェックする「PSA監視療法」や定期的にMRIで様子を見ていくという選択肢もあります。

また遺伝での発症リスクの心配がない人にとっては、PSA検査があるということを知っておくことが大切です。

日本では55歳ごろから検査項目に入れることを推奨されています。
その年代の人は、PSA検査を受診するかどうかは、自分の体の状態やリスク、メリットとデメリットについて考えてから選択するようにしてください。

残念ながら、前立腺がんの予防について、まだ決め手はありませんが、生活習慣病に気をつけて、前立腺がんのリスクを上げないようにしましょう。

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取材・文/百田なつき