企画はもっと選別されるべき
映連の統計によれば、2022年に公開された日本映画は実に634本。AさんもBさんも、市場規模からすればあまりにも多すぎると感じている。
Aさんは「映画好きとして、こんなの作っちゃいけないのでは?と思うような作品が多々ある」と言葉を荒げ、Bさんは「多くの作品が採算を取れておらず、ビジネスとして破綻しているのに、それでも日々大量に作られ続けている。不思議で仕方がない」と首をかしげる。
「ひどい労働現場で、無理くり予算を抑えて作られ、誰も観に来ない。誰のために作っているのかわからない。そういう作品が映適によってどんどん減っていく。いいと思います。もっと淘汰されるべきですよ、日本映画は」(Aさん)
Bさんも同意見だ。
「韓国では企画を厳選しており、どんなに低予算でも製作費は1億円を下りませんし、公開本数も日本より少ない。一方の日本では数千万円で作られる商業作品が山のようにありますし、中には予算1000万、2000万なんてものもある。もっと本数を減らして1本ずつに相応の予算をかけたほうがいい」(Bさん)
さらにBさんは、企画はもっと選別されるべきだと主張する。
「個人的には、クリエイターの生活が成立しないような商業企画は、どんどん減っていいと思います。ただでさえ不足気味のスタッフが取り合いになっている上に、“監督”という肩書きを餌に薄給労働で情熱や才能が搾取されていると感じるので」(Bさん)
海外に市場を求めるしかない
Bさんによれば、労働環境を守らなければならない、かつ実写映画の市場規模が変わらない(もしくは縮小している)のであれば、早期的にとるべき方法は二択だという。
「『製作本数を減らして予算を選りすぐりの企画に集中させる』か『予算を増やしても資金回収できるようにビジネススキームを根本から変え、世界市場に向けて作る』か。ただ、前者で最悪のシナリオがあるとすれば、より大衆に迎合する安パイの企画しか通らず、映画の多様性が今以上に保たれなくなる。となると後者ですが、これは一朝一夕にはいきません」(Bさん)
Aさんも「国内マーケットだけではもう無理」と感じている。
「日本映画でもときどき攻めた作品が出てきますが、なかなか客が入らない。同業者として非常にクオリティが高いと感じる作品も、ビジネス的にはかなりきつい。やはり海外にマーケットを広げていくしかない」(Aさん)
日本の映画業界において、そのノウハウがあり、かつ実行できる人材がどれほどいるだろうか。しかし、それでも打開策を模索し続けなければ日本の映画業界に未来はない。Bさんは言う。
「製作本数が減ることで何が起こるかは、予想がつかない部分も多々あります。限られた人にしか仕事がいかず、作品だけでなく人までも淘汰されるかもしれない。だけど私は、これまでの流れをここらで1度ぶち壊すべきだと思うんですよ。それこそ、今まで通りやっていては、この業界に未来はないので」
文/稲田豊史
【訂正】記事内に誤りがありましたので、以下のとおり訂正しました。
(誤)AさんもBさんも、直近で関わっている作品で申請して映適マークを得た。
(正)AさんもBさんも、直近で関わっている作品で映適マークを申請した。