予算は1.5倍になり、製作本数は減る?

【映画過剰供給国ニッポン】2022年の公開作は634本。採算が取れないのに大量に作り続けられる日本映画に未来はあるのか_2

ところで、Aさん、Bさんが共に予見していることがある。映適によって、作られる映画の作品数が減るというのだ。

つまり、こういうことだ。

まず、1日あたりの撮影時間の上限が決められている映適のガイドラインをクリアするには、今までと同じ規模の作品を作るためにより多くの撮影日数を確保する必要がある。たとえば、従来なら撮影に1日あたり15時間使い、20日間で撮り終えていた作品があったとする。総撮影時間は15×20=300時間だ。しかし映適マークをもらうには1日あたり11時間しか撮影できない。300時間の撮影時間を確保するには28日、つまり撮影日数が8日増える。

撮影日数が増えればスタッフの拘束日数が長くなるので、支払うギャラも増える。スタッフの食事代や宿泊費も追加されるし、機材費なども上乗せされる。つまり製作予算を増やさざるをえない。Aさんによれば「作品予算が従来比で1.5〜1.6倍になる」。こうなると、今まで予算かつかつでビジネス的にギリギリ成立していた作品が成立しなくなる。結果、今まで通っていた企画が通らなくなり、作品数が減るというわけだ。

とはいえ映適マークの申請は義務ではないので、今までどおりスタッフに長時間労働を強いることで予算を抑えることはできる。ただAさんとBさんによれば、制度の協約に調印した映連や日映協に加盟する会社が製作する予算1億円以上の作品は、「事実上、申請が義務化されている」という。

「映適の申請区分は、製作予算が1億円を超える作品の『A区分』、5000万超 1億円以下の作品の『B区分』、5000万円以下の作品の『C区分』と3区分ありますが、映連や日映協に加盟する会社の間には、自分たちが参画して推し進める制度である以上、特に予算1億円を超える作品は申請していないと他社に対して見栄えがよくない――という暗黙の了解があります」(Bさん)

なお日本映画の製作予算は、アメリカはもちろん韓国に比べても低く、Bさんの体感では「平均して5000万〜7000万円くらい。予算1億円は“中規模”の部類に入る」。Bさんは「予算が上がることによって1億円前後の規模感の作品が、もっとも減る可能性が高い」と見立てる。