妊娠9か月、出産への不安がおさまらない

同じくガザ市出身のイスラさん(33)も、13日の避難命令を受けて南部ラファへ移動した。祖父母が住む2階建ての家に、親族や友人の10家族・約60人がともに生活している。パレスチナ人の家庭には子どもが3、4人いることが多く、10家族分で子どもの数が40人近くになるという。

イスラさんは現在妊娠9か月目で、今月16日に3歳になったばかりの娘もいる。誕生日ケーキのろうそくに火をつけて吹き消すのを楽しみにしていたが、その日は周囲の建物からのぼる炎をいくつも目にしただけだった。外から聞こえるのは爆撃の音だ。

アパート前の道路と破壊された建物
アパート前の道路と破壊された建物

「ハッピーバースデー」とはとても言えない日となった。まだ幼い娘も状況をなんなく理解しているようで、何かを欲しがったりもしなかったという。少しずつ言葉を習得している娘がこの約2週間で覚えたのは、「爆弾」「上空」という言葉だ。

「侵攻が始まる前日の夜、ガザ市のレストランで妹とディナーを楽しんでいた。アイスクリームを食べたり、2人で写真を撮ったり。それが私にとって最後の楽しかった思い出なの」

そのとき食事をとったレストランは、爆撃によって破壊されてしまったという。

イスラエルとハマスの衝突が始まった日、イスラさんは妊婦検診で病院へ行く予定だった。病院へ行くことはできず、今月に入ってから検診を受けられていない。この状況下で、来月予定している出産への不安がおさまらない。

「親族の中に看護師がいるから、助けてもらいながらこの家で出産することになるかもしれない。ガザ北部の病院で爆撃があったので病院での出産は安心できず、負傷者の治療で医師も足りていない。まともな場所で出産することはほぼ不可能だと思っている。エジプトへの避難も考えたが、国境も攻撃を受け、道中何があるかわからない。お腹が大きいので思うように動けず、今のタイミングでは出国も難しい」