最後の新人王戦へ
将棋界で主に若手棋士を対象にした棋戦のうち、最も歴史があるのが新人王戦だ。新人王戦の参加資格は、現状では「26歳以下」「六段以下」となっているほか、女流棋士やアマチュア、三段リーグの成績上位者にも枠がある。歴代優勝者には羽生善治や渡辺明ら一流棋士がずらり名を連ねる。
2016年10月にプロ入りを果たした藤井は、17年の第48期新人王戦に初参戦した。トーナメントで2勝を挙げたが、準々決勝で当時四段だった佐々木大地(ささきだいち)に敗れた。
2回目の挑戦となった第49期の初戦(2回戦)は18年2月14日、古森悠太(こもりゆうた)に勝った。この日はちょうどバレンタインデーだった。日本将棋連盟関西本部によると、2月1日に順位戦でC級1組への昇級を決め、五段に昇った藤井に対し、「持ちきれないくらい」のチョコレートが届いたそうだ。
さらに、7月28日に指された3回戦から、「最後の新人王戦」として注目を浴びていく。新人王戦初戦の3日後に第11回朝日杯将棋オープン戦で優勝して六段に昇り、5月18日の竜王戦ランキング戦で連続昇級を果たし七段になった。新人王戦の参加資格は「六段以下」。矢継ぎ早の昇段で、16歳にもかかわらず、次期以降は出場できなくなったからだ。
3回戦の対戦相手で当時六段の八代弥は第10回朝日杯の優勝者。対局は「全棋士参加棋戦の朝日杯を制した大型新人同士の激突」として注目を浴びた。3時間の持ち時間を両者ほぼ使い切る熱戦を制したのは藤井だった。終局後、藤井は「最後の最後まで、きわどい局面が続きました」と振り返った。勝った後でも喜びをあらわにしないタイプの藤井が珍しく、うれしそうな笑顔を見せた。
藤井は、8月31日の準々決勝で当時五段の近藤誠也(こんどうせいや)、9月25日の準決勝で同じく当時五段の青嶋未来(あおしまみらい)を連破した。関東の俊英を下した藤井は決勝三番勝負という檜舞台に躍り出た。「公式戦での番勝負は初めて。全力を尽くしたい」と話した。