縄文人をナメていた2人

4連休初日の朝、僕らは意気揚々と東京を発ち、活動場所の山へと向かった。到着したのはお昼ごろ。山には様々な木やツル植物が生え、歩いてすぐのところには澄んだ川が流れている。いよいよここで週末縄文人の活動が始まるのだと思うと、僕らの胸は高鳴った。

「火起こしはこの4日間で確実にできるとして、もし余裕があったら石斧を作るところまでいきたいな」

「そうだね。石斧があれば、1週間くらいで竪穴住居が建てられそうな気がする」

「うんうん。その調子でいけば、きっと来年には製鉄してるな!」

「縄文時代はすぐに終わっちゃうね!」

2人「はっはっはっはっ!」

結論から言うと、この能天気な2人が火起こしに成功するのは、2ヶ月もあとのことだった。

「僕らは縄文人を完全にナメていた」都会のサラリーマン2人は“原始の火起こし”を再現できるのか?〜「週末を使ってゼロから文明を築く」前編_2

僕らはこのとき、縄文人の技術や知恵を完全にナメていた。現代人の知識を持ってすれば、シンプルな文明レベルの縄文時代なんてすぐにクリアできるとたかをくくっていたのだ。しかし、その想定は見事に外れた。

これを「縄文作業3倍の法則」と名付けている。縄文時代のやり方で何かを作る計画を立てると、だいたいその3倍は時間がかかるという経験則だ。「これは1時間で終わる」と言えば3時間、「3日もあれば十分だろう」と言えば9日はかかるのが相場だ。そのうち、「これは2日もあれば終わ……」「やめろー!」という感じで、計画を口にすることは不吉なこととして忌避されるようになった。

これが何を意味するかというと、それだけ僕たちは自然について、そして自分の肉体について無知だということだ。削ろうとする石の硬さや、切ろうとする木の強さ、丸腰で自然に対峙したときの人間の非力さについて何も知らないから、目測を誤ってしまうのだ。かくして何も知らなかった僕たちは、鼻歌交じりで火起こしの準備にとりかかった。