まっすぐな木がない!
森に戻ってきた僕たちは、火きり棒の素材となる木を探し始めた。しかし、これがなかなか見つからない。そもそもどんな種類の木が適しているかわからなかったため、とりあえず回しやすそうな、なるべくまっすぐな木を探すことにした。
しかし、意識して見渡してみると、森にはまっすぐな木がほとんどないことに気づいた。まっすぐに見えても微妙に湾曲していたり、途中に瘤があったりと、なかなか思った通りの木が見つからないのだ。“直線”とはいかに人工的で不自然な概念なのかを思い知らされた。
もしかすると、自然の中で生きてきた人々にとって、珍しい“直線”は憧れの対象だったのかもしれない。湾曲やでこぼこを排除した直線だらけの現代都市は、そんな憧れを持つ人類の行き着いた、皮肉な意味での理想郷のような気もしてくる。
さて、1時間ほど“直線”を探して、ようやく見つけたのが空木(ウツギ)という植物だった。その名の通り、幹の中が空洞になっていて、節が少なく、限りなくまっすぐに近い。長さ40cm、先端の直径が1cmくらいの棒になるように幹の一部を切った。試しに回してみると、重心はほとんどブレることなく、美しく回転する。火きり棒はこれでいけそうだ。
続いては火きり板作り。「板」を作るには、大きい木を切り倒し、それを縦方向に板状に割らなければならない。試しに直径20cmほどの杉を石器で切ろうと試みたが、その圧倒的な硬さに一太刀目で断念した。今の装備で倒せる相手ではない……すぐさま作戦変更だ。
考えてみれば、火きり板が「板」である必要はない。火きり棒がハマりさえすればよいので、棒の直径よりも幅が広い木片ならいいはずだ。そこで、直径2cmくらいの若い広葉樹を切り、30cmほど頂戴した。生木で水分を多く含んでいたため、乾かすために石器で樹皮を剥ぎ、陽の当たる石の上に置いておいた。皮を剥いた木は真っ白で、長ネギみたいだった。
火きり板にはもう一手間かかる。火きり棒を回転させるときにズレないようにするための窪みを彫る必要があるのだ。また、回転によって生じる木屑が一箇所に落ちるよう、窪み に接する溝も彫る。石器を使ってグリグリ。10分ほどで火きり板も完成した。
ところで、火起こしに関する本を読むと、火きり板には杉が適していると書かれていることが多い。そこで、僕らも杉の枝で作ろうとしたのだが、硬すぎて窪みが彫れずに断念した。現代のように鉄のナイフがあればいいが、僕らの未熟な文明レベルに、杉はまだ早いようだった。
しかし、これには思わぬ副産物があった。杉枝の樹皮を石器で剥いでいたら、剥がれていく皮がフワフワの繊維になったのだ。「あれ、これ火口になるかも」
しかも杉の樹皮にはヤニ(油)が含まれているため、これが意図せず最高級の火口になったのだ。
これで火起こしに必要な材料が揃った。ようやく実践だ!
文/週末縄文人(書き手:文)
写真/『週末の縄文人』より出典。撮影=横井明彦