サイレントマジョリティーの声に耳を傾けよ
藻谷 長野市の場合は、結局、クレームを言っている側の言うことを聞いて、言わん側を黙らせたほうが楽だから、そっちに走ったように見えますよね。
泉 私に言わせれば、政治・行政が仕事してないってことですね。
藻谷 それって、やくざがおったら、取りあえず身をかがめて目合わさないようにするのと、本質的には同じ行動を行政が取っているように見えるんですよ。
泉 俗に言うノイジーマイノリティーとサイレントマジョリティーの問題ですね。政治の場合、ノイジーなマイノリティーが力を持ち過ぎて、世の中の多数の人が置いていかれている。ノイジーマイノリティーに対する過度な配慮は、物を言わぬ者にとって不利益を被っていることはと多いと思います。
藻谷 泉さんは、最大多数の最大幸福というベンサム(ジェレミ・ベンサム。18~19世紀のイギリスの哲学・経済学者。功利主義)の言ったことを、具体的な現場で徹底的にやってきたと思うんですよ。それをやらないと何が起きるかというと、サイレントマジョリティーが潰れていくわけですね。
泉 深いご理解ありがとうございます。ノイジーマイノリティーとサイレントマジョリティーのテーマで、別の角度から少し補足すると、明石のコミュニティバスは全国でトップレベルに成功しているんですよ。なぜほかが失敗しているかというと、うちの家の前に停留所をつくれと言うノイジーマイノリティーの声を反映するから、どんどん乗客が少なくなる。明石はそうではなく、声の大きい町内会長じゃなくて、ほんとに乗る人のサイレントの声を受けて、ちゃんと合理的な路線設定をしているんです。だから右肩上がりで乗客も本数も増えていて、全国トップなの。
藻谷 すばらしいです。
泉 バスをどう走らせたらバスに乗ってくれるかということをちゃんとやっている。ほかの市は、声の大きい地域のボスの声ばかりを聞いている。
藻谷 その結果、やたら迂回ばっかりして、誰も乗らないようになる。
泉 そうそう余計乗らなくなるんです。そういう大きい声の人の声は聞いたふりして、本当に乗る人の声を生かして便数も路線も決めなあかんのです。サイレントマジョリティーの声を聞かないと本当のニーズはわかりません。
藻谷 お客さんのほんとの声はどうやって調べるんですか?
泉 それは毎年のように路線変更して声を聞いて、乗車テストして見直しします。