常連客が感じた違和感
昭仁容疑者は県警の調べに対し、現場に落ちていた包丁で弘輝さんの腹や背中を刺して失血死させたことを認め「恨みがあった」と供述しているが、詳細な動機についてはまだ語っていないとみられる。しかし、事件の起きた9月15日の数日前から、昭仁容疑者の異変に気づいていた常連客もいた。
現場に献花に訪れた30代の男性が最後に来店したのは、13日の夜だったという。♯2でも報じたように、同店では昼番を弘輝さんが務めて一旦閉めたのち、スープを仕込み直して夜番を昭仁容疑者がこなすスタイルで営業を続けてきた。
「自分は夜に行くことが多かったのですが、基本的に夜番の方がワンオペでやっていて、ふだんは『いらっしゃいませ』や『ありがとうございました』と接客用語もきちんと言うし、変だと感じるところは全然ないんです。ところが事件の前々日の夜遅くに行ったときは、いつもと様子が違って機嫌がすごく悪そうで、挨拶もろくにしてくれませんでした。ラーメンを提供する時に小声で『おまたせしました』ぐらいは言ってくれたかな。今思うと、あのときすでに何か思い詰めていたのかもしれません」
いつもは昼間にラーメンを食べにくるという常連客の男性も、昭仁容疑者のプロらしからぬ態度に辟易したという。
「2〜3年前に初めて訪れた際に、店員がとても頑張っていて、自分も飲食店をしていたから応援する気持ちで通うようになりました。それが昼番の店長(弘輝さん)です。私が『硬めでも濃いめでもない普通のラーメンでスープ多め』と最初に伝えた好みをずっと覚えていて、毎回その通りに出してくれていました。多い時期は週4ペースで通っていたこともあります。長話をしたことはありませんが、毎回ブレずにラーメンを出してくれるので、いつも『ありがとう』と声をかけていました」
男性はいつも昼食時に訪れていたが、8月上旬、仕事の都合で初めて夕方に来店した。この時、店番をしていたのは見慣れた弘輝さんではなかった。
「ニュースで報道されていた坊主頭の容疑者でした。味の好みや麺の硬さについても聞いてこないので、私から『普通で』と伝えたのですが、出てきたラーメンはなぜか麺が固めでした。というより噛み切れないほど固かったので、『麺が固くて食べられないよ。別のどんぶりに釜湯をくれ』と催促すると『えっ』と言ったきり謝りもしませんでした。無愛想に釜湯を出すと、調理場に入る手前あたりのイスに座ってこちらを睨みつけてきました。
さらに数日後、また夜に店に行ったのですが、今度はありえないくらいスープが塩辛くて、思わず『スープがしょっぱすぎる。釜湯をくれ』と要求しました。ほぼ同じタイミングでラーメンを出された隣のお客さんも『うわっ』と腰を浮かせてウォーターサーバーの水をどんぶりに注いでいました。その人は『しょっぱくて食べられない』と途中で帰っていきました」
その際にも昭仁容疑者は男性のほうを睨みつけていたという。そして9月上旬、男性は3回目の夜番に挑んでみた。
「その日は店に入って私の顔を見るなり不機嫌そうに『あんたは出禁だ!』と言ってきました。理由を尋ねると『あんた文句ばかり言うだろうっ』というので、『残念だよ。あれを文句だと思うのか』と言い返しました。これだけ昼と夜でラーメンの味にばらつきが出るとよくないだろうと思い、昼間の店員の耳に入れておこうと思っていた矢先に事件が起きたんです。もしかしたら私の他にもこういうことをされた人がいて、それが伝わって2人の間でトラブルになったのかもしれません。私は大好きなラーメン屋でしたし、弘輝さんはとても頑張っていたので残念でなりません」