とあるホームレスの末路

【孝弘の遍歴】
六十代の孝弘は、数年前からホームレスをしている。NPOのスタッフが聞いたところによれば、孝弘は若い頃から職を転々として、長くても二年ぐらいしかもたなかったそうだ。原因は人間関係でトラブルを起こしてしまうことにあった。
孝弘は些細なことでカッと頭に血が上ってしまう性格で、一日に一度は怒鳴り散らすことがある。そのため仕事場で必ず誰かと衝突し、職場にいづらくなってしまうのだ。
同じことは女性関係にも当てはまった。女性と付き合っても、意見の食い違いがあると、感情的になって手を上げてしまう。そのため、女性との交際が三カ月以上つづいたためしがなく、結婚もしたことがなかった。
孝弘がホームレスになったのもこの性格が災いしていた。若いうちは体力があるから、多少厄介な性格でも雇ってもらえるが、年を取れば煙たがられる。そうしているうちに貯金が底を突き、ホームレスに身を落としたのだ。
NPOスタッフは次のように語っていた。
「孝弘さんはおそらく精神的に何かしらの疾患を抱えているんだと思います。だから人間関係がうまくいかない。こういうホームレスは結構いて、路上で暮らすようになった後も人間関係を自分から壊してしまうんです」

安定した生活を手に入れるには、職場においても、プライベートにおいても、人間関係を安定させる必要がある。それができれば仕事を失わずに済むし、何かあった時に助けてもらえる。逆にいえば、それができないタイプの人は、ホームレスに陥りやすいのだ。

#1 【年間3万人の孤独死】世界第3位のGDPを誇りながら、世界ワースト4位の相対的貧困国である日本の実相

世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル (PHP文庫)
石井光太
なぜ日本でホームレス同士の結婚はないのか? 性別・年齢・結婚歴から見るホームレスになりやすいタイプとは_4
2023/8/2
924円(税込)
248ペ-ジ
ISBN:978-4-569-90326-2
◆日本人の6人に1人は貧困層、世界で7億人超が絶対的貧困……
◇世界と日本のデータが明かす「見えない貧困」の真実とは?
◆読めば、この国の「幸せのかたち」が見えてくる!

世界第3位のGDPを誇る日本。しかし実際には、
「先進国中ワースト4位の貧困国」であると聞けば、驚くだろうか。

その理由は、日本の貧困は、いわゆる途上国の貧困とされる、
「絶対的貧困」とはまったく形態が異なる「相対的貧困」だから。
貧困という言葉は同じでも、絶対的貧困と相対的貧困は、その性質が大きく異なる。

本書では、途上国の絶対的貧困と、日本の相対的貧困を、
8つの視点から比較することで、現代社会における「本当の貧しさとは何か」を考える。
読めば、貧しさとは何か、希望とは何か、豊かさとは何か――その片鱗が見えてくる一冊。
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