台湾有事となれば、日本国内の病院を中継することもあるが…

TCCCとは、平時の医療では現場から救急病院に直行して決定的治療を施すことに対して、戦場では治療をせず、救命または機能維持のための処置にとどめ、必要最少の応急治療によって設備の整った病院治療を受けられるまでの間を中継するための取り決めだ。

図2-3「TECCとTCCCの地域的概念図」にあるとおり、テロや戦闘が局地的であり医療インフラが機能している場合は、上半分のTECC(テックシー)が適用される。

自衛隊の戦場医療認識に欠けている第一線での救命の取り組み。正しい処置ができていれば防ぎ得た死をできるだけ減らそうという世界的潮流に遅れをとるワケ_3
図2-3 TECCとTCCCの地域的概念図。『「自衛隊医療」現場の真実 - 今のままでは「助けられる命」を救えない -』より

武力侵攻を受けている状態であれば下半分のTCCCの適用となる。

TCCCには図2-4「米軍の治療・後送体制」にあるとおり、Role1から4の段階があり(Roleについては第四章で詳述)、イラク・アフガニスタンの戦闘では決定的治療はドイツで行われ、制服を着て帰国できる状態になるまで治療を受けてから、ワシントンDC近郊にある、日本で言えば防衛医大と自衛隊中央病院を合わせたようなWalter Reed Army Medical Centerにて専門的な高度医療を受けることになっていた。

自衛隊の戦場医療認識に欠けている第一線での救命の取り組み。正しい処置ができていれば防ぎ得た死をできるだけ減らそうという世界的潮流に遅れをとるワケ_4
図2-4  米軍の治療・後送体制。『「自衛隊医療」現場の真実 - 今のままでは「助けられる命」を救えない -』より
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台湾有事となれば、ハワイに送られることになるが、ベトナム戦争時のように日本国内の病院を中継することもあるだろう。

逆に言えば、こうした対策が徹底されなければ戦死者は増える。正しい処置ができていれば防ぎ得た死を、できるだけ減らそうというのが世界的潮流なのだ。

だが自衛隊の戦場医療には、こうした観点が欠けている。「戦術、戦法」を組み立てるためには「諸元」、つまり目安が必要となり、時間的目安は特に重要なのだが、考慮されているとは言い難い状況にある。

文/照井資規

#1『自衛隊医療従事者に辞めてしまう人が続出なのはなぜ? 編制定数・推定3000人必要なところに実際は1000人、任官辞退時に最高額約4800万円の返還義務が生じるのに…』はこちらから

#3『自衛隊員の個人携行救急品のお粗末さ…キルギスやスリランカ以下、1カ所の銃創の止血すらできない隊員の命を脅かすともいえる装備』はこちらから

『「自衛隊医療」現場の真実 - 今のままでは「助けられる命」を救えない -』(ワニ・プラス)
照井資規 
自衛隊の戦場医療認識に欠けている第一線での救命の取り組み。正しい処置ができていれば防ぎ得た死をできるだけ減らそうという世界的潮流に遅れをとるワケ_5
2023/9/1
¥1,980
256ページ
ISBN:978-4847073434
今すぐ手を打たなければ
市民の命も、自衛官自身の命も守れない!!

陸上自衛隊で、普通科・衛生科両職種の研究を続けた筆者だからこそ
今すぐ強く訴えたいことがある

台湾・朝鮮半島有事、国内の凶悪事件、テロ、さらにあいつぐ自然災害。   
内外からの危機が現実になったとき、人々の命を守るのが「緊急事態対処医療」である。
自衛隊は民間とも連携しつつ、常にその最前線に立たなければならない。
地下鉄サリン事件、東日本大震災などの事件・災害現場や、新型コロナウィルスのワクチン接種などで
一般の市民は、彼らの活動をメディアでも目にしているだろう。
「災害時にたよりになる」と市民に評価されることは多くなったものの、自衛隊医療の「実態」は楽観できるものではない。
人員不足、予算不足に加え、複雑過ぎる組織、実態に合わない携行品、
市民の「有事」に対する危機感の薄さ、備えの貧弱さは今すぐ解決すべき課題を冷静に分析し、
あるべき姿を提言する。

【内容紹介】
1章  自衛隊医療の限界を露呈した「コロナワクチン大規模接種」
2章  ないがしろにされる自衛隊員の命
3章  核ミサイルが着弾、その時・・・
4章  日本は「銃撃」「テロ」「災害」に対処できるのか
5章  「市民救護」があなたを救う
6章  日本が世界に貢献するために 
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