柔らかい豆腐を固いバーにして大ヒット

課題を打破するための新商品というより、もっと食べ方を広げないといけないと考えていたときに、市場調査で出張に行ったアメリカで池田さんは「豆腐バー」に繋がるアメリカの食習慣に触れる。

「アメリカのスーパーでは、日本で売られている豆腐とは別物で、調理別に固さの違う豆腐が並んでいました。お肉の代わりに焼いて食べる固めの豆腐などバリエーション豊かでこんなに種類や食べ方があるんだとびっくりしました。

これらからヒントを得て、帰国後、日本でも固めの豆腐が作れないかということを思いついたんです。ちょうどコンビニでもサラダチキンのスティックタイプが出始めていて、豆腐もこの形にすればもっと食べていただけるのではと考えました」(池田さん)

帰国後、さっそく商品開発を提案したが、池田さんの発想に社内では戸惑いがあり、なかなか受け入れてもらえなかったそうだ。
固い豆腐を誰も作ったことがないため、はじめはフライパンで焼いたり、熱を加えた後から水気を絞ったりなど試行錯誤が続いた。
やがて固い豆腐にするには最初から水を絞った状態にしないといけないことがわかり、製造設備を新しくするなどさまざまな部署と協力してようやく1年後にプロトタイプが完成した。

「この状態では、まだまだ未完成でしたが、この商品は面白いとセブンイレブンさんから言っていただいたんですが、当然このままでは売れないとも言われました」(池田さん)

折しも、セブンイレブンではサラダチキンが大ヒットしていたため、そこを意識した課題が挙げられた。
サラリーマンがパソコンやスマホを使いながら片手で食べられるよう、豆腐バーもパッケージを開けたときに水が出て手が汚れたりしないように。
たんぱく質は1本10gは入れる。
サラダチキンを食べ慣れている層にアピールするには、噛みごたえと満足感があるように味をつけることなどの課題をもらい、そこからまた開発に取り組むことに。

その1年後、ようやくこうした課題を克服し、2020年11月にセブンイレブンで「豆腐バー」を販売開始し、1年間で約1000万本を売り上げる大ヒットとなった。
ちょうどコロナ禍での販売開始だったが、健康意識の高まりも追い風になったようだ。

1年で約1000万本の大ヒット! 柔らかい豆腐をあえて固くした「豆腐バー」はなぜ売れたのか?_3
開発から2年かけて完成した『豆腐バー』

「当社は豆腐を食べている層や食べ方がエイジングしているという課題が、セブンイレブンさんでは、たんぱく質を含む食品がブームの中、サラダチキン以外の選択肢を増やしたいという課題がありました。『豆腐バー』は双方の課題を解決する商品だったんです」
(池田さん)

『豆腐バー』を販売したことで狙い通り、ワンハンドで食べる新しい食べ方、コンビニを利用する若い世代に訴求することができ、現在2023年4月末時点で4300万本を突破する同社の代表商品となっている。

「自分で言い出した商品でしたが、売れるかどうか不安で仕方なかったです。社内でも不安視する声もありましたし…。
発売当初は『豆腐バー』のことをつぶやいていただけるか、毎日ツイッター(現:X)をチェックしていました。つぶやきの中で『サラダチキンの隣に豆腐バーがあったので買ってみた!』という投稿が多く、セブンイレブンさんがおっしゃったとおり、サラダチキンを購入する人の買い回り品となっていたことがわかりました。また、豆腐は植物性たんぱく質ということもあり、体型を気にする人たちにも受け入れられたことが大きかったですね」

大ヒットしたことで一時、供給不足になったが、2022年に生産ラインを増やし、セブンイレブンをはじめ、ローソン、ファミリーマートでも販売開始し、自社ブランドとしてもスーパーに流通させるなど、今ではどこでも購入できる商品になった。