背中を押された古田敦也のアドバイス
二軍監督、そして一軍監督を務めて分かったのは、若手の野手にとって一軍の経験はすべて肥料になるということだ。場数を踏ませることがもっとも重要で、ミスをしてもいい。守備、走塁、送りバント、いろいろなミスが多発する。しかし、それがすべて栄養になっていくのだ。経験値はそのまま成長へとつながる。
ところが、投手はそうはいかない。一軍のマウンドに上がって失敗したとする。たとえば、ボールを連発してストライクが入らない、大量点を与えてしまった――。こうした経験によって精神的なダメージを負うことがある。だから、若手を一軍で登板させる場合は、それなりに状況を整える必要があると思っている。
高卒の投手の場合、勝ち負けには関係のない場面とか、レギュラーシーズン終盤の試合とか、過度な責任を負わないシチュエーションでの登板を考える。一方、大卒、社会人出身の投手は別である。彼らは即戦力として期待されているわけで、余裕を持った起用はなかなかできない。
2023年のキャンプで古田さんが捕手陣を指導するにあたり、内山を二刀流にすることを伝えたら、古田さんがガッカリしてしまうのではないかと僕は心配していた。
古田さんとキャンプのプランを打ち合わせする時に、「実は、壮真なんですが……」と話を切り出すと、「それはめちゃくちゃいいアイデアだよ」と賛成してくれた。ものすごくホッとした。そして古田さん自身の考え方も教えてくれた。
「将来はもちろんキャッチャーだろうけど、やっぱり試合に出ない限り、うまくならないからね。一軍のピッチャーの球を打席で見ないと打てないし、うまくならない。二刀流は内山の可能性を広げることになるから、どんどんやったらいいよ」
ありがたい言葉だった。キャンプに入ると、古田さんが内山にいろいろなことを伝えているのが目に入ってきた。