教育虐待とは正反対の正しい教育とは何か

だが、父親は理解を示さず、「集中力がない」「遊びの誘惑に勝とうとしていない」と考えた。そして指導にこだわるあまり、琉星を勉強部屋に無理やり閉じ込め、力ずくで机に向かわせるということをつづけたのである。

第3次中学受験ブームの中、エスカレートする教育が虐待へとつながる社会背景と…教育虐待をする親に見られる「ASD+高学歴」_4

琉星はそんな生活を何年も強いられたことで心を病み、勉強どころか、逆に家庭内で暴力を振るうようになった。

親だけでなく、子供の発達障害も絡んで、過度な教育がのっぴきならない状況に陥った例だといえる。これに対して、取材した医師は、こうした親子関係について次のように分析する。

「子供が持っている障害の種類によって親の行動が変わることがあります。親が勉強を強いた時、ADHDやASDの子供は、じっとすわっていられないとか、思い込みで違うことをやるなどといったことがあります。
特性が行動にあらわれる。それゆえ、親は子供に対して『止めなさい』『ちゃんとやりなさい』という具合に行動制限をかけようとするので、叩くなど身体的な抑制を伴う教育虐待が生じやすいのです」

現在、10人に1人の子供が発達障害だといわれている。逆に言えば、親の方も10人に1人が発達障害ということになる。

私は発達障害がかならずしも教育虐待につながるとは思わない。ただ、本稿で見てきたようにいくつかの要因が重なることで、それが虐待と呼ばれるほどの指導を引き起こすことがある。

子供にはその特性に応じた勉強の仕方があり、拙著では教育虐待とは正反対の正しい教育とは何かを示した。親がなすべきは、自分の偏った考え方や、世の中で行われている学習法を一律に押し付けることではなく、子供自身の特性をしっかりと見極め、何が合っているかを考えて示すことだ。

第3次中学受験ブームの今だからこそ、親の歪みが子供に向かわないようにしたい。

取材・文/石井光太

#1 児童相談所内で自殺を図った女性
#2 ゴミ屋敷の中で子供はガリガリに痩せて…
#3 特殊詐欺に狙われやすい2大ターゲットとは…
#4 給食中にクラスメイトをフォークで刺して…
#6 「ゴミ屋敷チルドレン」が抱える苦難
#7 職場いじめに発展する大人の発達障害6つの特徴
#8 夫の風俗通いをOKにしたけど離婚に…
#9 ゴミ屋敷に住むコンパニオンが陥った“感覚鈍麻”
#10 避妊なし・60分6500円で本番の底辺風俗店で働いてきた発達障害の女性の闇

★取材協力者募集
シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症など様々な社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報をお守りすることはお約束しますので、取材を引き受けていいという場合は下記までご連絡下さい。
メールアドレス:shueisha.online@gmail.com
Twitter:@shueisha_online