教育虐待とは正反対の正しい教育とは何か
だが、父親は理解を示さず、「集中力がない」「遊びの誘惑に勝とうとしていない」と考えた。そして指導にこだわるあまり、琉星を勉強部屋に無理やり閉じ込め、力ずくで机に向かわせるということをつづけたのである。
琉星はそんな生活を何年も強いられたことで心を病み、勉強どころか、逆に家庭内で暴力を振るうようになった。
親だけでなく、子供の発達障害も絡んで、過度な教育がのっぴきならない状況に陥った例だといえる。これに対して、取材した医師は、こうした親子関係について次のように分析する。
「子供が持っている障害の種類によって親の行動が変わることがあります。親が勉強を強いた時、ADHDやASDの子供は、じっとすわっていられないとか、思い込みで違うことをやるなどといったことがあります。
特性が行動にあらわれる。それゆえ、親は子供に対して『止めなさい』『ちゃんとやりなさい』という具合に行動制限をかけようとするので、叩くなど身体的な抑制を伴う教育虐待が生じやすいのです」
現在、10人に1人の子供が発達障害だといわれている。逆に言えば、親の方も10人に1人が発達障害ということになる。
私は発達障害がかならずしも教育虐待につながるとは思わない。ただ、本稿で見てきたようにいくつかの要因が重なることで、それが虐待と呼ばれるほどの指導を引き起こすことがある。
子供にはその特性に応じた勉強の仕方があり、拙著では教育虐待とは正反対の正しい教育とは何かを示した。親がなすべきは、自分の偏った考え方や、世の中で行われている学習法を一律に押し付けることではなく、子供自身の特性をしっかりと見極め、何が合っているかを考えて示すことだ。
第3次中学受験ブームの今だからこそ、親の歪みが子供に向かわないようにしたい。
取材・文/石井光太
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