学校は、時間意識やコスト意識が希薄な職場へと化した
「時は金なり」と言うけれど、この社会には、何時間余計に働いてもそれがお金に換算されない職場がある。国家百年の計を担う「学校」が、その職場である。
1971年に制定されたいわゆる「給特法」の下では、使用者に残業代支払いの義務が課されない(詳細は後述)。残業代の支払いがないということは、残業した時間を把握する必要もない。こうして学校は、時間意識やコスト意識が希薄な職場へと化した。
国も、教員の勤務実態に関する調査を、1966年以来2006年まで実施することはなかった。40年もの間、教員の労働はその実態が見えないままに放置された。
ただし、誤解を恐れずに言うならば、さまざまな職場がある中で、学校は最も時間管理が厳格な職場の一つであろう。50分の授業、10分の休憩、50分の授業、10分の休憩……と、1日の活動が細かく区切られ、活動の節目にはチャイムが鳴り、定刻が訪れたことを知らせてくれる。
チャイムは、まさに時間管理の象徴である。教員も子どもも全員が、あらかじめ設けられた定刻に従って動いていく。改めて考えてみると、学校という空間は実によく設計された、近代社会の合理的なシステムと言えよう。
休み時間の終わりは「3分前入室、2分前着席、1分前黙想」
定刻を守らなければ、次の活動に直接的な支障が生じる。一つの授業が5分でも延びると、次の授業に影響が及ぶ。教室移動があればなおのこと、5分延長の影響は大きい。だから全員で時間を遵守する。チャイムの音色は、私たちの身体を拘束する。
このところ従来の時間管理をさらに一歩進めた「○分前~~」という取り組みをよく耳にする。
授業が円滑に始められるよう、子どもは休み時間中に準備をして、例えば授業開始の3分前には教室に入り、2分前には着席する。あるいは5分前に入室、3分前に着席といったパターンもある。1分前には黙想を取り入れている学校も少なくない。学級委員などが、クラスメイトに声かけをして、厳格な時間管理を達成する。
定刻のチャイムと同時に「起立」の号令がかけられ、授業が円滑に開始される。「浜松TG(トランスジェンダー)研究会」の調査によると、浜松市では市立中学校48校のうち19校で、3分前入室、2分前着席、1分前黙想などの「分刻みのスケジュール」が組まれていたという(読売新聞、2019年12月29日)。