苦手な業務が多いからといって「ADHD」だと悩む必要はない

——こうした相談をされる方には、何か共通点があるのでしょうか。

こうした困りごとを抱える方の中には、「ADHD(注意欠如・多動症)」と診断される方もいます。ADHDは、活動に集中できないなどの「不注意」と、待つことが苦手などの「多動-衝動性」が平均水準よりもひんぱんに見られる特性で、発達障害の一種です。この傾向が12歳以前より認められる場合には、発達検査などを行って診断します。

近年は「大人のADHD」という言葉もあり、大人になってから診断を受けるケースも増加しました。しかしADHDの厳密な診断基準を満たしていなくても、「生きづらさ」を感じている方はいらっしゃいます。たとえば以下のような困りごとですね。

・思考が散らかりがち
・ミスが多い
・場にそぐわない発言をしてしまう
・目の前に現れたタスクをつい優先してしまう
・聴覚よりも視覚優位
・計算はとても速くて正確

こういった特性を「発達障害」「ADHD」「グレーゾーン(ADHDの診断は下りないものの、近しい特性が見られる状態)」という言葉に結びつける方もいますが、そもそもこの分類には意味がないと考えます。

ADHDだからといって、ADHD専用の対処法があるわけではありませんし、グレーゾーンだからADHDの方よりも日常生活で支障を感じにくいわけでもありません。グレーゾーンにはグレーゾーンの辛さがあります。一人ひとり、得意なことや苦手なことがそれぞれ違うため、その方に合った対処が必要です。

精神は物理に勝る! 能力のデコボコは「仕組み」で解決

——今の話を受けて「自分はADHDやグレーゾーンかも?」と感じた方は、どのように対処すればよいのでしょうか?

「気合いで性格を変えよう」なんて考える必要はありません。得手不得手は誰にでもありますし、特性そのものは欠点ではありませんから。

大切なのは、日常生活で困った場面をしっかりと掘り下げて、トラブルを防ぐ仕組みを考えていくこと。意識を変えるのではなく物理的な仕組みを作って対策しましょう。

【仕組みで解決した事例】(困りごと/対処法)

仕事の締め切りを守れない
・タスクを細分化して細かく締め切りを設定する
・上司に進捗のチェックを依頼する

タスクの優先順位を判断できない
・重要なタスクを付箋に書き出してPCに貼る
・周囲の人にもタスクを見える化する

寝坊が多い
・家族や友人に電話で起こしてもらう

テレビの情報に気を取られて遅刻する
・朝はテレビをつけない

電話対応で聞くこととメモを取ることが苦手
・電話対応用のメモ用紙を作る(相手の名前、連絡先、要件を記入するフォーマット)

指示を聞きながらメモを取ることが難しい
・動画や写真を撮影して、視覚的に理解できるようにする

こちらでご紹介している事例はあくまでも、私が患者さんと向き合う中で見出した解決策であり、万人に効果があるとは限りません。しかし、似たような悩みを抱えている方にとっては参考になるのではないでしょうか。