素顔は謹厳実直なスポーツマン

鍛え上げられた肉体美に宿る繊細な演技力。映画『aftersun/アフターサン』主演の27歳ポール・メスカルは、若手スター不在のハリウッドを救う救世主になれるのか_2
初主演ドラマ『ふつうの人々』
Everett Collection/アフロ

『ふつうの人々』のインタビューで私が初めて彼に会ったときの印象は“地味”でした。「わあハンサム!」とか「キャー素敵」とこちらが浮き立つような都会的な華やかさはまったくなく、体ががっちりしている謹厳実直な人という感じ。

彼と同じ年代の若手がしのぎを削り、スターダムに向かって演技を磨いていることに触れ、「憧れているハリウッドスターは?」と聞くと、思った通り謹厳実直タイプの答えが返ってきました。

「素晴らしい俳優のひとりであるティモシー・シャラメは、今一番注目を集めている新しいタイプの主演俳優です。でも僕は、彼とは全く違う鋳型で作られた俳優だから、比べようがありません。

演劇学校ではハンフリー・ボガードやマーロン・ブランドの作品をたくさん見てインスパイアされてきました。最近の俳優で言うと、テレビシリーズ『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』(2014)のウディ・ハレルソンとマッシュー・マコノヒー。彼らを見ていると“こんな演技がいずれできるようになるのだろうか?”という恐怖心と、“がんばるぞ”という信じられないくらいの刺激を受けるんです」

 『ふつうの人々』で演じたのは、ゲーリックフットボール(ラグビーとサッカーを合わせたようなアイルランド発祥のスポーツ)の花形選手コネル。若い男女の愛の形を描いた物語の中で、全裸シーンも披露しています。実は、彼も長年ゲーリックフットボールの選手で、試合中に顎を骨折するまでは名プレイヤーとして知られていたそう。鍛えあげた彼の肉体美を見て「セクシー」と感じるファンは非常に多いです。

「演劇学校ではコンタクトスポーツをやることを禁じられていましたが、無責任なことに僕はずっと隠れて続けていました。舞台への出演が決まっていたのに顎の骨折をし、セリフがうまく言えなくなったことで、ゲーリックフットボールとは完全に縁を切りました。でも、ドラマを通して世界中にゲーリックフットボールの存在を知ってもらえたことは嬉しいです。

舞台でも映画でもテレビでも、いい作品にしようとみんなでベストを尽くすコラボレーションは、チームスポーツに似ていると思います。自己鍛錬してチームに貢献することを、僕はスポーツから学びました。

舞台に出演していた2年間は、僕に“演技とは何か”を教えてくれた原点。と同時に、かなりギリギリの収入だったので家賃が払えないこともありました。それでも挫けずに目標に向かって続けてこられたのは、スポーツで鍛錬した精神力があったからだと思います」