『サレタガワのブルー』の魅力③:心臓がキュッとなるような心理描写
疑いから確信へと迫ろうとする時に経験する、全身が心臓になったかのような緊張感。浮気が発覚したときの血の気の引くような感覚や、息がし辛くなる感じ、感情が渦を巻き、押し寄せる強烈な吐き気。
経験したことのある人間にとってはフラッシュバックするかの如く、経験したことのない人間でも思わず擬似体験してしまうほどのリアルな心理描写が巧みに表現されており、読み手を作品の中に一気に引き込んでいく。
当時、連載をリアルタイムで読んでいた私は、何度も作品を読む手が震え、自分が浮気されているかのような気分に何度も陥った。
それは登場人物の繊細な心理描写が余すことなく表現されていることのほかに、自身と重ねてしまうような行動をキャラクターが自然ととっているからだとも感じられる。
例えば、第5話で暢が友人から「藍子が浮気しているのではないか」と告白を受けたシーン。ここで暢は普段感じない“些細な会話の間”に敏感になったり、違和感に目を瞑るように「まさかうちの奥さんに限って不倫だなんてそんなことはありえない」と自身に言い聞かせたりするのだが、まさに自分がしてしまいそうな行動だと共感した。
自らが当事者になったような没入感を味わえることこそ、この作品の魅力の1つ。多くの人の心を掴み、苦しくても作品を読み進めてしまう理由なのだと言える。