適応障害に季節性はない
――病院を受診するほどではないがつらいという場合はどうすればいいでしょうか。
田近医師: 問題が大きくて自分には解決できないと感じる場合は、その問題をいくつかの段階に切り分けて考えましょう。例えば、大きな仕事を任せられて、自分には到底できないと感じるとき、全体としては解決できないように思えても、切り分けることで意外に第一段階はクリアできることがあります。すると自信がつき、第二段階に進んでクリアできるかもしれません。そうすることでやればできるんだという「自己効力感」が増していきます。
しかし、どうしようもない問題にぶち当たった際には、気分転換をすることが重要です。また、いっそその問題から逃げる、というのも選択肢としてあることを忘れないでください。
――五月病をがまんしているとどうなるのでしょうか。
田近医師:ストレスが続くことで、症状が悪化していくケースはあります。この状態はいま、一般に、「六月病」「七月病」と呼ばれることがあるようですが、五月病と同じく、医療の現場で用いる病名や用語ではありません。
悪化してうつ病と診断がつく状態になるとセルフケアでの回復は難しくなり、適切な薬による治療が必要になります。
――ひとつ疑問ですが、適応障害は、季節性はない病気ですよね。5月、6月だけに多いわけではないと思うのですが、医療の現場ではどうでしょうか。
田近医師:適応障害は、花粉症やインフルエンザのように季節性はありません。その適応障害の説明として、「五月病」「六月病」などの表現が一般に多用されていることは、精神科の現場では違和感も覚えています。
ただ、適応障害がどういう病気なのかという説明として、「◯月病」という俗称のほうが患者さんにとってはわかりやすいのかもしれません。厚生労働省、自治体、保健協会、医師会などでも、予防の啓発のために「五月病」「六月病」という表現をよく使用している理由はそこにあるのではないでしょうか。
環境の変化はどの月でもあり、異動や対人トラブルなどで不適応を起こして精神科を受診される方は一年中いらっしゃいます。季節に関わらず、注意をしていきましょう。
――ありがとうございました。
五月病とは、心身に不調があってストレスの原因が明確であれば適応障害と診断される場合があること、また、単に気分的なものではなく病気であること、ストレスの原因である問題を取り除けずにがまんしていると悪化する可能性があるということです。こうした不調に思いあたる場合はできるだけ早く受診したいものです。
構成・文 海野愛子/ユンブル イラスト 星野スウ/PIXTA